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労働判例を読む#617

今日の労働判例
【学校法人コングレガシオン・ド・ノートルダムほか(明治学園)事件】(福岡地小倉支判R 5.9.19労判1313.54、一部認容・一部却下、控訴)

 この事案は、解雇無効の判決確定により復職した教員Xが、実際にはなかなか仕事を与えられず、組合交渉を経てやっと仕事が与えられた際には、北九州の学校ではなく福島の学校での勤務が命じられたため、この配置転換が無効である、等と主張し、争った事案です。
 裁判所は、Xの請求を概ね認めました。

1.地域限定合意
 けれども、XY間に地域限定合意があったとXが主張する点について、裁判所は否定的に判断しました。契約時に福島に学校がなかったとしても、後に転勤先ができることはよくあることで、就業規則にも配点可能性が明示されているだけでなく、Xも配転可能性を認める誓約書を提出していたこと、その後、これを制限するような話し合いなどもないこと、を理由としています。
 就業規則などで明文のルールがあるのに、これに反して地域限定合意を認定することは極めて難しいですから、この点の判断は合理的でしょう。

2.権利濫用
 裁判所は、権利濫用を認めましたが、その判断構造が注目されます。
 まず、判断枠組みとしては、有名な「東亜ペイント事件」(最二小判S61.7.14労判477.6)の判断枠組みを採用しています。すなわち、①必要性があるかないか、②(必要性があっても)不当な動機・目的があるかないか、③通常甘受すべき不利益かどうか、④その他特段の事情があるかないか、という4点に整理して、議論しています。
 ここまでは、一般的な判断枠組みであって、①~③それぞれについて、(比較的簡単に)事実をあてはめて判断をしています。
 例えば①は、Xが教員免許を有する科目について、福島の学校に担当教員の空きがあったこと(時間数などに基づき、掘り下げて検討しています)を理由に、「業務上の必要性がないとはいえない」と示しました。
 ②は、9か月間仕事を与えなかったこと、福島への配転の先例がないこと、事前の打診などがないこと、①の必要性の程度が低いこと、を理由に、「不当な動機・目的」を認めました。
 ③は、特に理由を示さず、おそらく②と同じ点を理由に、「通常甘受すべき不利益」を否定しました。Xに対して厳しい対応を継続してきた理事長が福島で勤務しており、その監視下にXを置こうという点が重要な影響を与えている、という評価をする意見もあります(上記労判57頁上段右側の解説)。
 しかし特に注目されるのは、①~③の関係です。
 ①~③について、それぞれ独立に検討評価する、という考え方もあり得るでしょうが、特に②の理由の中でも明言しているとおり、①(必要性)の程度と関連付けて、②を検討しており、③もこれと同様のようです。
 すなわち、①のハードル(従業員側から見た場合)が低くなれば、②③のハードルも低くなる、という関係が認められますので、①~③を総合的に評価していることがわかるのです。

3.実務上のポイント
 さらに、Yは経営主体が途中で変わったことから、Yは、Xの使用者としての立場にない(旧法人との関係の問題にすぎない)、実際、Yの認可取得のために提出された教員名簿にXが記載されていない、等と主張しましたが、裁判所はYを使用者と認めました。事業全体を移転したことが主な理由です。
 少子化により学校経営が難しくなっていく中で、学校事業の再編などが今後増加するでしょうから、その際の教員の配転などについて、学ぶべき点の多い事案です。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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