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松下幸之助と『経営の技法』#289

11/30 縁を結んで

~あるがままの姿を認めあうことで、縁が結ばれ、共栄の道を歩むことができる。~

 お互いを”有縁”の輪で結びあわせたいのです。そのためには、お互いのあるがままの姿を認めつつ、全体として調和、共栄していくことを考えていかなければなりません。それが、人間としての道、すなわち“人間道”というものです。お互いに”人間道”に立った生成発展の大道を、衆知を集めて力強く歩みたいものだと考えております。

(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 ここでの「有縁」は、同質な人の間での同調(シンパシー)よりも、異質な人の間での調和(ハーモニー)の意味でしょう。「調和」という言葉が使われているだけでなく、「お互いのあるがままの姿を認め」ること、すなわち自分と他人の違いを認識し(無意識ではない)、その上で受け止めること、が要求され、さらにその受容は、個人の問題ではなく「全体として」行われるべきものです。その結果、「調和、共栄していく」のですから、ここでの「有縁」は、同質的な集団の排他的な結束力ではなく、多様な人材の包摂的な求心力を意味します。
 これは、松下幸之助氏の磨き上げた経営モデル、すなわち従業員にどんどん権限移譲していくタイプの経営モデルに非常にマッチします。これと対極の経営モデル、すなわちワンマン会社やベンチャー企業にあるような、経営者の指示命令を忠実に実行することだけが従業員に求めるような経営モデルの場合には、従業員の多様性はむしろ余計なことであり、組織の団結力や突破力を弱めかねません。
 しかし、どんどん権限移譲する経営モデルでは、従業員の多様性が組織の広がりや厚みにつながりますので、多様性がより生かされるのです。
 すなわち、ここでの松下幸之助氏の言葉は、自分が苦労して実践し、磨き上げてきた「多様性」を重視する経営モデルの成功を、社会に広く広めていきたい、という気持ちを語っていると評価できるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 会社の外との関係、という広さでこの問題を見た場合、社会の多様性を受容しよう、という方向性が読み取れます。現在の国際社会の状況では、グローバル化の反動として民族主義的で排他的な思想が広がっていますが、それとは反対の発想です。
 しかも、まるで今日の反動を予知していたかのような言い方です。
 すなわち、多様性を受容することは、理想として立派(人間道、大道)だが決して簡単なことではないから、「衆知を集め」ないと、「力強く歩」めないのです。

3.おわりに
 しかし、多様性こそが永続性の秘訣です。ダーウィンの進化論も、強い種が生き残ったとするのではなく、たまたま新しい環境に適合する状況にあった変種・亜種が生き残った、とするものですから、特に社会環境が大きく揺れ動いている現在こそ、組織や社会、国家の生き残りのために重要なはずです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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