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経営組織論と『経営の技法』#87

経営組織論と『経営の技法』#87

CHAPTER 4.2:権限と責任
 今度は組織図のタテの関係に注目しましょう。分業や階層といった組織図は、権限と責任を規定します。組織図は、情報や指示の伝わる経路を示すだけでなく、併せて組織の上層から下層へとつながる権限の経路を示すものでもあります。ここでいう権限とは、命令を与え、その命令が実行されることを期待する管理職のポストに固有の権利のことです。
 ただし、この権限はポストに付与されるものであって、人に付与されるものではありません。総理大臣は、総理大臣であるから解散や総辞職ができるのであって、たとえ個人的な資質が優れていようとも、総理大臣を辞めた人にその権限はありません。また、マネジャーがある従業員に権限を委任するような場合、権限に見合った責任を割り当てる必要があります。
 つまり、権限を与えられるときには、それに応じた仕事を行う義務も起こるようにする必要があります。な ぜなら、責任のないままに権限だけを与えてしまうと、その権限が濫用される危険性があるからです。私たちは与えられた仕事の成果に責任を持つことになるからこそ、権限を行使することに熟考するわけで、そうでなければ権限は別の目的に使われてしまうことも考えなければなりません。反対に、権限が与えられていないのに責任だけが生じる場合も問題なのは自明のことでしょう。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』76~77頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

2つの会社組織論の図

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村・久保利・芦原/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 ここで論じられているのは、いわゆるレポートラインです。
 特に欧米の会社では、自分は誰の指示で動き、誰の報告する(レポートライン)か、が重要です。最近は、会社もコミュニティーを標榜し、従業員が帰属する「場」であることを強調していますが、もともとはもっと個人個人バラバラだったようです。自分が雇われたのは、今のボスであって、そのボスのボスは〇〇だけど、会社全体で何をしているのかはよくわからない、という感覚です。今でもこの感覚は残っていて、社内で他部門に異動した場合(この異動自体、ボスとの契約、という発想の時代にはありえなかった)、それまでのボスから、昔のよしみで手伝ってくれと言われても、今のボスはあなたではない、という理由で断ってしまうことがよく見かけられるのです。
 このような、上司と部下の契約関係がそのままレポートラインになりますから、自分の仕事の内容を決め、評価し、給与を決めるのが上司であれば、レポートライン外の人との付き合い方を決めるのも上司です。日本では、他部門から質問があれば、何のこだわりもなくすぐに返事してしまう場面でも、上司の承諾を取る場面が多くなります。他部門との間で、上司が知らないやり取りをすることは、上司に対する背任になりかねないからです。
 欧米の会社の、上司と部下のレポートライン(契約関係)を基礎とした会社組織は、言わばマッチ棒をくみ上げたような組織です。日本のように、大きな容れ物が最初から用意されているのとは、ずいぶんと状況も、当事者の意識も異なります。
 リスク管理の観点から会社組織を見る場合、この欧米の会社組織のイメージ(マッチ棒型)と、日本の会社組織のイメージの違いが問題になることがありますので、その際には改めて検討しましょう。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 他方、経営者のレポートラインは株主です。
 特にアメリカでは、経営者が自分の業績を株主総会で株主に納得させ、時期の継続雇用と報酬を勝ち取るのが経営者の課題ですから、株主総会でのアピールに必死です。その前哨戦となる投資家説明会の段階から、全米あちこちを回りながら、会社の実績と自分自身の手腕をアピールしますので、プレゼン能力は皆一流です。
 これに対し、日本では株主総会による経営者の交代劇は、なかなかお目にかかることが無く、株主がまじめに株主としての権利を行使している様子がありませんでした。そのため、株主総会は形骸化し、一時期、日本の多くの会社の株主総会が「総会屋」に仕切られる有様でした。ここで、本来の株主が株主総会で正当に権限行使し始めれば、総会屋の居場所などあっという間になくなってしまうはずですが、そうならず、経営者が手練手管を駆使して株主総会を運営し、総会屋を排除していく、という有様です。
 株主に必死にアピールするアメリカの経営者を見ていると、経営者も大変だなあ、と感じますが、けれどもガバナンスが効いている、というのはこのような状況のことを言うのであって、かつての日本のような状況では決してありません。
 つまり、レポートラインとしての株主への報告義務が、しっかりとチェックされることが、ガバナンスの基本なのです。

3.おわりに
 本文の記載からも見えるように、会社組織のどのポジションに位置づけられるかによって、誰との間でレポートラインがあるのかが決まります。
 けれども、特にアメリカの会社では、上記のように、私を採用したこのボスが私の上司であり、レポートラインである、という形で、採用の段階からレポートラインが明確です。
 ここでは、理解するために勉強するのは前者のタイプですが、理解の役に立つ思う場合には、後者のマッチ棒のような会社組織も参照しながら、検討を進めます。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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