松下幸之助と『経営の技法』#342

1/22 青春とは心の若さである

~常に前進する気力さえ失わなければ、心の若さは永遠についてくる。~

 私には、十数年前から、いわゆる座右の銘としている1つの言葉があります。それは、
  青 春
 青春とは心の若さである
 信念と希望にあふれ
 勇気にみちて日に新たな活動を続けるかぎり
 青春は永遠にその人のものである
 というものですが、これは古希の祝いにとある人からもらったアメリカの詩人、サミュエル・ウルマンの誌「青春」にヒントを得てつくってみたものです。
 これには、常に若くありたいという希望と、常に若くあらねばならないという戒めが込められています。肉体的な年齢が年々増えていくのは、誰もが避けて通れない事実ですが、心の若さは気のもちようであり、それは必ず表にあらわれます。つまり、常に前へ進む気力さえ失わなければ、若さはいつも向こうからついてくる、というのが私の信念です。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資対象ですから、しっかりと儲けてもらわないと困ります。逆に、投資家はそのような経営者の資質を見抜くことが必要です。
 ここでは、人生哲学のような、個人の人間としての問題を論じているように見えますが、経営の問題として検討しましょう。松下幸之助氏の言葉は、経営者としての経験から生み出されたものであり、経営者としての教訓や経験を学べると考えるからです。
 では、青春=心の若さが、経営にとって重要なのは何故でしょうか。
 それは、社会の変化に対応し、新しいチャレンジを続け、自ら変化できるためでしょう。例えば、創業100年を超える企業を研究し、長寿企業の経営や在り方を学ぶ「老舗学」が、経営学の一分野として確立しています。ここでの最大の関心事は、なぜ「長寿」できるのか、という問題ですが、その分野での様々な研究の成果として異口同音に語られるのが、伝統へのこだわりと、時代の変化への柔軟な対応の両立です。
 しかも、経営として見た場合、変化とは決して簡単なことではなく、古いものの選別・決別と、新しい物へのチャレンジが伴います。チャレンジとはリスクを取ることですから、リスクを見極めてリスクを取る、という決断と、それに基づく実行が必要です。古い組織にとって、それがいかに難しいことか、硬直化した縦割り組織の弊害などの話などから、誰でも容易に理解されることです。
 だからこそ、肉体的な年齢として、組織の体質がどんどん古くなるにつれ、「常に前に進む気力」も並大抵のものでなくなっていき、どんどん大変になるはずですが、それでも、「常に前に進む気力」があれば、「老舗学」の研究成果で示されているように、会社も生き生きと「長寿」できるはずなのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 特に古い組織の場合、この「常に前に進む気力」を1人経営者の問題として片付けてはいけません。組織全体が、変化する意識を共有し、ベクトルを一致させなければなりません。
 そのためには、例えば人事考課も、減点主義ではなく加点主義にする、人事制度も、年功序列を廃止する(影響を小さくする)、等の方法が検討されるべきでしょうが、何よりも従業員の意識や社風の変化も大事です。変化にチャレンジした役員や従業員が、仮に失敗しても、チャレンジしたこと自体が評価され、重く見られる、という実績が積み上がっていくような指導力を経営が発揮し、組織もそれを受けて自ら変化していく、そのようなサイクルを、根気強く回し続けることが重要です。

3.おわりに
 「前に進む気力」を維持し続けることこそ、本当は一番大変です。心が折れそうなこと、気力が湧かないこと、自分自身の気持ちなのに、自分自身がコントロールできないこともあります。どのように自分を奮い立たせるのか。悩むところです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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