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松下幸之助と『経営の技法』#234

10/6 世間が決めてくれる

~仕事は社会にやらせてもらっているもの。仕事が伸びるかどうかも世間が決めてくれる。~

 世の中の求めのないところ、いかなる職業も成り立ちえないのです。その意味ではお互いの仕事、職業は、自分でやっているというよりも、社会にやらせてもらっているのだということになると思います。
 そのように考えますと、そこには1つの大きな安心感と感謝の気持ちとが起こってくるのではないでしょうか。この仕事は自分の小さな意志だけでやっているのではない。世間が必要としているのだ。仕事が伸びるか伸びないかは世間が決めてくれる。自分は、ただ世間の求めるところに対して、省みて過ちなきを期していけばいいのだ。それ以外のことには心をわずらわす必要はない。そういった1つの安心の境地が得られると思います。そして、それとともに、そういう仕事を世間からやらせてもらえるのは、本当にありがたいことだという感謝の念も生じてくるでしょう。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

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1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 いつもと順番が違いますが、まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 ここで注目したいのは、経営者が、「世間の求めるところ」に応えていく、という姿勢です。今日でいうと、ステークホルダーが社会であること、あるいは企業には社会的責任があること、等につながる発想です。
 けれども、社会と会社の関係はこれに限られません。
 すなわち、会社は市場を通して社会に評価されます。商品やサービスが売れる、ということはそれだけ需要がある、ということですから、「世間が必要としている」ことになります。つまり、市場が、会社の商品やサービスのことを、社会的に有益かどうかを評価しているのです。これは、「お金は企業に対する投票用紙」という発想と同じです。社会的に有益であり、社会に貢献すれば、商品やサービスが売れ、儲かるのに対し、社会的に無益であれば、商品やサービスが売れず、儲からない(会社がつぶれる)ことになるのです。
 このように、一方で、企業自体が社会に対して責任を負うだけでなく、他方で、企業の商品やサービスが社会に貢献する、という2つの面での関りが、会社と社会の関係です。
 このうち、ここでの松下幸之助氏の言葉は、主に後者の関係でしょう。「仕事が伸びるか伸びないかは世間が決めてくれる」からです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 すなわち、上記の観点から、すなわち市場で評価され、「売れる」商品やサービスを作り、継続的に供給できるような組織を作ることが、内部統制の問題です。市場の動向や競合他社の動向をモニターする機能、その情報を活用して商品やサービスを開発する機能、その商品やサービスを実際に製造・供給する体制、それを販売する営業機能、そのような機能を備えた組織を作ることです。
 このような機能は、ビジネスの一番中心となる機能であり、ここから会社ができあがって、大きくなっていくところですから、これらの機能が備わっていることは、当然のことです。
 問題は、その機能の在り方です。
 ここでは、2つのことがポイントになります。1つ目は、商品やサービスが売れること、2つ目は「省みて過ちなきを期(する)」こと、です。
 この2つのポイントを合わせ見るとわかることは、売れればそれで良い、結果オーライだ、というわけではなく、その判断が「過ちなき」ようにすることが重要、という視点です。これは、リスク管理の観点から見るとわかりやすいポイントです。
 すなわち、結果だけに頼るのは、一種の博打です。うまくいけばラッキー、ということで、成功確率だけに命運を委ねています。けれども、ビジネスは博打ではありません。結果的にうまくいけばすくわれる部分があるにしても、最初からそれだけを頼りに勝負をして許されるものではありません。本当に必要なのは、リスクをコントロールし、減らす努力、何かあった場合の対策の準備、「人事を尽くして天命を待つ」状態にしたからこそ、法的責任や社会的非難を受ける可能性が減るし、チャレンジする経営判断の合理性も高まるのです。
 こうして見ると、適切な意思決定プロセスを経てデュープロセスを満たし、適切にリスクコントロールした適切な意思決定を行うことが重要なのです。

3.おわりに
 松下幸之助氏は、さらにこの先まで進んでいます。世間が決めてくれるのだから、世間に委ねてしまおう、という発想です。
 ただ、これは簡単にたどり着ける境地とは思えません。ある程度商品やサービスが社会に認められて、それなりに稼ぐようになってきているからこそ、つまり、会社として何をどうすれば儲かるのか、という手応えがあるからこそ、世間の求めるところに応えていけばそれだけでいい、という感覚を得られると思うのです。多くの会社が、世間に認めてもらえた、これさえあればとりあえず会社は儲けることができる、という会社の基盤となるところを構築するために四苦八苦しています。
 したがって、経営の基盤が確立でき、ベースとなる収益源が獲得できれば、あとはその収益源となるビジネスを常に社会のニーズに合わせて微調整する、という作業によって、最低限の収益が確保されますので、その間に新しいことにチャレンジする余裕もできます。この状態こそ、世間が決めてくるのだから、世間に委ねてしまおう、という悟りの境地です。
 この意味で、松下幸之助氏のいう「安心の境地」は、決して簡単にたどり着ける境地ではない、と考えられるのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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