労働判例を読む#71

【国際自動車(再雇用更新拒絶第2・仮処分)事件】東地判H30.5.11(労判1192.60)
(2019.6.14初掲載)

この事案では、労働組合による労働者供給事業に基づいて紹介され、採用された従業員について、労契法19条の適用可能性が問題とされました。裁判所は、労働者供給事業に基づく場合の労契法19条の適用可能性を肯定しました。さらに、実際に労契法19条を適用したうえで、更新拒絶の合理性がないとして、雇用契約が継続していることを認めました。

1.労働者供給事業
労働組合による労働者供給事業とは何でしょうか。また、会社は何故、この事業により採用された従業員について、労契法19条の適用がない、と主張したのでしょうか。
普段、馴染みのない方もいるでしょうから、確認しましょう。
この制度は、民間事業としての派遣事業が職安法の例外として合法化されたときに導入された制度です。民間企業が事業として行う派遣事業の場合には、いわゆる「ピンハネ」が生じることが問題である、として導入されました。すなわち、労働組合が無償の事業として労働者を紹介することになるのです。
そうすると、この労働者供給事業を利用する会社としては、民間の派遣事業者から従業員を派遣された場合と同様、必要に応じて比較的自由に、当該従業員の利用開始と終了を決定できると思いかねません。
けれども、この裁判例が示したように、労契法19条の適用の有無で、両者に差が生じます。
たしかに、実際、この事件で国際自動車側は、労働者供給契約が無ければ発生せず、労働者供給契約が終了すれば終了する、という特徴がある点を、根拠として指摘しています。これは、その実態が派遣事業と同様のものだから、派遣の場合と同様に扱うべきである、という趣旨の主張と思われます。
けれども、民間の派遣事業の場合には、労働契約は派遣会社と従業員の間に成立します。派遣先の会社と当該従業員の間には、労働契約は存在しません。そのため、当該従業員が派遣先の会社で勤務継続することに期待を有していても、もとになる労働契約が存在しないため、労契法19条は適用されません。
これに対し、この労働者供給事業は、労働契約が労働組合と従業員の間で発生しません。労働契約は、実際に勤務する会社と従業員の間で直接成立しますので、労契法19条の適用について、構造的な問題はありません。さらに、この裁判例では、会社の組合が労働者供給事業者としての届出をし、労働者供給契約を締結した経緯(75歳までの雇用継続の継続維持を目的とする)や、労働者供給契約締結前から労働契約が存在していたことを指摘し、そのうえで、労契法19条の適用可能性を認めたのです。

2.労契法19条の適用
労契法19条には、1号と2号があり、多くの裁判例では、このいずれが適用されるのかの判断が示されていますが、この裁判例では、特に理由も示さずに2号だけが検討され、2号該当性を肯定しました。必要な争点だけ判断している、という趣旨であれば、1号該当性について何も判断していない、ということになるので、1号と2号の関係について、これ以上検討しません。
ここでは、何によって2号該当性を認めたのか、を整理しておきましょう。
裁判所が2号該当性を認めた根拠となる事情は、①労働者供給契約締結の以前から、定年退職者の再雇用が行われていたこと、②当該従業員が7年間更新していること、③75歳まで雇用継続する運用が定着していること、④当該従業員の業務はタクシー運転手であり、会社にとって「恒常的かつ基幹的な仕事」であること、⑤会社が主張する、会社から雇用継続を申し出ており、従業員は自分の判断で退職した、という点は、雇用契約の主要部分の変更を伴い、これに応じなければ更新しない、というものであり、「契約更新の拒絶すなわち雇止めとしての側面をもつ」こと、です。
特に、一般的に指摘される事情は、このうちの②③④でしょう。更新の回数など、更新の運用自体(②③)だけでなく、担当する業務内容(④)も考慮されるのです。

3.雇止めの合理性
裁判所は、会社が主張する理由、すなわち、①72歳という年齢、②健康状態、③所定の出席回数未達、について、いずれも否定しました。
これは、①72歳よりも高齢の者がフルタイムで勤務していること、②年齢相応の問題を抱えていたものの、フルタイム勤務できないほどの疾病ではないこと、③フルタイム出勤未達は、有給休暇を取得したことによるものであって、健康問題など、労務提供不可能というものではないこと、を理由とします。

4.実務上のポイント
労契法19条の適用可能性について、裁判所は、労働契約が存在することだけでなく、労働者供給契約締結前から労働契約が存在していたこと等を指摘しています。
したがって、これらの事情が存在しない場合がどうなるのか、問題の余地があります。
例えば、民間の派遣業者から派遣されたAと労働組合の両方から紹介されたBについて、両方とも終了しようとした場合、どうなるでしょうか。形式的に、労働契約の有無だけを問題にするのであれば、労働契約の存在しないAには労契法19条適用可能性がなく、労働契約の存在するBには労契法19条適用可能性があることから、Bの更新拒絶だけが無効になり、Bだけ雇用継続されることになり得ます。民間の派遣業者による派遣と、労働組合の労働者供給事業による紹介は、同種の制度であると言われる一方で、更新拒絶の場面で両者に差が生じる可能性が見えてきました。
この裁判所の判断によれば、この架空の事案のABについて、同じく労契法19条適用可能性がない、と判断する可能性も、あまり大きくありませんが、残されていると評価できます。
実務上のポイントとしては、法律構成の違い、という形式的な問題ではなく、他の従業員は雇用継続されている、という実態の問題が、結果に大きな影響を及ぼす、という点を指摘しましょう。労働法の分野では、例えば「労働者性」の認定に際し、契約書の記載よりも「指揮命令」の実態で判断されますし、「偽装管理職」など、契約上の建前と実態が異なる場合には、実態に基づいた判断がされることになります。このように、形式よりも実態が重視される労働法の特色が、この事案からもうかがえるのです。
したがって、実務上は、高齢者の更新拒絶の場合、この事案のように同様の立場の従業員の処遇と比較されることを念頭に、更新しない理由が、実態に合致することを十分検証することが、ポイントになります。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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