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労働判例を読む#404

今日の労働判例
【国・出雲労基署長(ウシオ)事件】(松江地判R3.5.31労判1263.62)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、スーパーを複数店舗運営する会社Y(正社員約90名、従業員約330名)でバイヤーをしていた従業員Kが自殺した事案です。遺族であるKの両親Xらが、労災に該当すると主張してきました。
 労基署は労災に該当しないと判断しましたが、本裁判所は労災に該当すると判断しました。

1.うつ病の診断
 自殺事案で困難なのは、この事案のように生前医師の診断を受けていない場合です。うつ病に罹患していたかどうかの判断が極めて困難となり、実際、この事案でもうつ病の罹患を認めるP医師の意見書と、否定するO医師の意見書のどちらが信用できるのかが重要な論点となりました。
 ここで2つの意見書をざっくりと比較すると、①Oは、Yの関係者からヒアリングしたのに対し、Pは、Kと同居していたXにヒアリングした、②Oは特に精神科を専門とするものではないのに対し、Pは、精神科を専門とする、これらの点に、大きな違いがあります。そして、精神科の専門医が、生活を共にしていた家族からヒアリングをすれば、相当程度信頼性の高い診断ができる、という評価を前提に、P医師の意見書の示した判断を採用しました。
 本人が死亡してしまった場合の精神障害の有無の認定について、参考になります。

2.実務上のポイント
 本判決はさらに、仕事のストレス強度に関し、長時間勤務を認定して、ストレス強度「強」とし、業務との因果関係を認めました。他方、社長による叱責や指導について「弱」にとどまるとするなど、仕事に関する他の事情については、強いストレスを認定しませんでした。
 個性的な上司の場合に、相当のストレスを受けることは理解できますが、業務上合理性のある場合には、そのストレスも重く評価されないのでしょうか。同じストレスであっても合理的な場合とそうでない場合とでは、ストレス強度の評価が異なるようにも思えますが、この判決だけでは判断しかねる問題です。今後、業務上のストレスの判断に際し、注目すべきポイントのように思われます。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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