見出し画像

松下幸之助と『経営の技法』#101

5/26の金言
 もの言わぬはずの商品が語りかけてくる。それほどの真剣さが自分にあるかどうか。

5/26の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。
 乾電池の工場に行った時のこと。製品がもうひとつ調子がよくないということで、責任者をはじめ担当の人たちがあれこれその原因を調べていた。そこで僕も、その乾電池を幾つか家に持って帰って、乾電池に付けた豆球の明るさを調べたり、じっと眺めたりをくり返した。そうするうちにふと、乾電池が「一ぺん温めてみてくれないか」と言っているような気がした。早速、鍋にお湯を沸かし、その中に入れて温めてみてから試してみると、明るさが正常の状態になっている。そこから原因がわかって、翌日早速、対策を講じることができた。そこでその責任者に、半ば冗談まじりに、「乾電池としばらくにらめっこしていると乾電池がもの言いよるで。君も乾電池製造のプロであるなら、そんな乾電池の声を聞き取れるようにならなあかんな」と話をした。
 もの言わぬはずの商品が何ごとかを語りかけてくるというのは一体どういうことなのか。僕自身もよくわからないのですが、結局、そのような声が聞こえるかどうかは、自分の側にどれだけの真剣さがあるかによるのではないかと思う。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 これを、個人の問題として見た場合には、閃きが生じるときに、ものが語りかけてくる、ということになりますが、人によっては、夢の中で閃く、ふろ場で閃く、等様々です。特に夢の中で閃く場合には、神や死んだ親せきや友人が語りかけてくるなど、神がかったパターンもよく耳にします。なぜ閃くのか、という原因については、どのようなパターンで閃くのかにも関係があるかもしれませんが、松下幸之助氏が言うように、突き詰めてあれこれ考えてみて行き詰まっているときに、全く違う切り口や逆転の発想で閃く、という話をよく聞きます。さらに、閃きを忘れないように、常に枕元にメモ帳と筆記用具を置いている、という経営者の話を聞くこともあります。
 さて、このような閃きを、組織として行うことが、経営学的な観点から見た場合の問題となります。個人の閃きを参考に考えてみましょう。
 そうすると、①相当根詰めて研究開発に取り組める人員と時間があることと、②そのメンバーが、研究開発に取り組むモチベーションが高いこと、が重要であることがわかります。特に②モチベーションは、義務としてやらされるだけではなかなか高まりませんので、おだてたり、報奨をチラつかせたり、名誉をチラつかせたりすることも、重要になってきます。
 そうすると、②モチベーションについては、このような人事制度とその運用が重要となることが理解できますが、その場合、最も重要なのは、③中間管理職者のマネージメント力です。実際に、チームとして統制しつつ、メンバーの士気を鼓舞し、活気づかせ、盛り上げていくことができれば、そのチームから「閃き」が生まれる可能性が高まるのです。
 このような①~③は、突き詰めるといずれも人事の問題です。
 このように整理してみると、人事制度の設計や運用、それを担当する中間管理職の能力、等の人事政策が、会社経営の重要なツールであることを理解できます。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者の資質として、従業員のモチベーションを高める能力の重要性が理解できます。自分自身の熱意を伝播させるようなやり方が得意な経営者がイメージしやすいですが、逆に、マネジメントの上手な管理者を集め、組織的に盛り上げるのが上手な経営者もいるでしょう。
 ここで、最近の問題として注意すべきは、このモチベーションだけに頼り過ぎ、熱くなりすぎた現場で過酷な労働が半ば強要されるような事態、すなわち「ブラック企業」を作り出しかねない経営者との見極めです。仕事は、お金でなく遣り甲斐であり、成長の実感や手応えだ、という名目で熱狂が場を支配し、気が付けば低賃金・過重労働、というパターンが一つのパターンです。このような「熱狂」を作り出せる経営者は、ときに非常に人間的に魅力があり、リーダーシップもあります。本当は経営者としても有能なはずが、従業員のモチベーションを上げることに重点が置かれ過ぎて、期せずして暴走してしまう場合もありそうです。
 そこで、現場の熱狂がブラック企業化に向けて暴走しないような歯止めも必要となります。
 すなわち、日ごろ監督できない株主に代わり、株主の代理人であるべき社外取締役や監査役などがチェックし、牽制するなどの制度設計や、運用も重要になってきます。
 このことから、ガバナンス上の牽制機能の重要性が理解できます。

3.おわりに
 経営者自身が開発に時々首を突っ込む様子は、テレビで人気だったドラマ「下町ロケット」を彷彿とさせます。たしかに、トップ自ら一緒に研究に没頭してくれると、現場の士気も上がるでしょう。乾電池の開発現場の士気も、きっと上がったはずです。
 会社を一から立ち上げた松下幸之助氏だけに、自らが現場に関わっていく場面を前提にした話が多く登場します。そこが、顔の見える経営者という印象の強い、松下幸之助氏の人間的魅力の1つだと思います。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?