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松下幸之助と『経営の技法』#359

2/8 自分の仕事の人気

~自分の仕事が社会に受け入れられているか。それを知らずしては次の仕事に進めない。~

 いわゆる芸能人が、自分の人気を気にすることは全く痛々しいほどで、その日の舞台が観客にどんな受け取られ方をしたかを毎日真剣に反省し、よければよいでさらにこれを伸ばし、悪ければ悪いで何とかこれを改善しようと、寸時の休みもなしに工夫を凝らす。人気が自分の生命を左右することを、これほど深刻に、身に沁みて感じている人々は、他にちょっと類がないであろう。
 もっともこれが度を過ぎると、そこから何かと弊害も生まれてくるが、しかしこうした心がまえがあるからこそ、激しい実力の世界を切り抜けて、芸の進歩が生み出されてくる。
 これはお互いに、十分見習わねばならぬことである。現在の自分の仕事が、人々にどんな影響を与え、また社会にどのように受け入れられているか、これを知らずしては、誰も次の仕事に進めない。それがどんな些細な仕事であっても、こうした日々の反省が、次の工夫を生み出し、進歩を促す。もちろん不必要にこれにとらわれ、つまらぬ頭の痛め方をすることはないけれど、いわゆる自分の仕事の人気ということについては、お互いに無関心であってよいはずがないのである。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資先です。しっかりと儲けてもらわなければ困りますが、投資家も、経営者の資質を見極めなければなりません。
 さて、ここ数日の検討の中で、松下幸之助氏の仕事に対するこだわりなどが繰り返し議論されています。その中で、これまでの議論と違う特徴的な部分としては、社会の評価です。
 すなわち、最終的に経営者として経営をそのまま任せるかどうかを決めるのは、投資家である株主です。
 けれども、そこで重要な判断要素となるのは、経営者が社会的にどのように評価されているのか、という点です。投資家が良いと思っても、社会が経営者を受け入れなければ、その会社も社会で事業継続することが難しくなります。近時、不祥事が起こった会社で急いで経営者の交代をしている(しかも、日本の会社だけでありません)のも、会社が経営者に対する社会の評価を気にしていることの1つの顕れです。経営者は、重要な決断をする責任を負うだけでなく、会社経営に関わる全責任(会社の顔としての責任を含みます)を負う立場である、ということが、世界的なレベルで明らかになったと考えられます。
 これを逆算し、経営者の立場から見たのが、ここでの松下幸之助氏の言葉です。
 つまり、経営者は自分の仕事ぶりの評価を客観的に評価できることが必要であり、そのためには時に不快で、耳が痛いことであっても、受け止めなければならないでしょう。そのような、株主に対する責任感があるからこそ、社会的な評価などに対しても意識を向けることができるのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 会社組織として見れば、市場に対する感性を、組織全体が高めなければならない、ということです。上司の指示、戦略部の立てた戦略に基づく指示、営業部門の設定した数値目標、など、会社の中で仕事をしていると、他人のせいにしたいことばかり、上から降ってきます。
 けれども、自分達が提案できることがあると考えるからこそ、現場は、カイゼン活動、QC活動、シックスシグマ、PDCA、などに積極的に関わります。しかも、それらの現場の活動のエネルギー源は、会社からの動機付けだけでなく、自分達の働く環境や仕事の手応えを少しでも高めたい、という現場従業員たちの「自己実現」への欲望も重要です。そして、このような活動のためには、与えられた仕事の種類に応じて当然異なってきますが、多かれ少なかれ、クライアント、顧客、川下部門、その他自分たちの仕事の「顧客」にあたる人たちの評価や意見が重要な要素となります。これらのの評価や意見を聞くということは、それぞれの立場の従業員たちが「自分の仕事の人気」を気にしていることに他なりません。
 このように、会社組織の経営として見ても、現場の全ての従業員が自分の仕事に対する他者の評価を気にすべきであり、それができるからこそ、組織の新陳代謝が組織の末端部分でも行われる状況になるのです。

3.おわりに
 「度が過ぎた」、自意識過剰な役者のようになれ、というわけではありません。もっと堅実なレベルで、すなわち自分自身を客観的に見つめるために、市場などの顧客の声を気にすることを、経営者と従業員のそれぞれが意識して取り組めば、会社全体の感度は間違いなく上がりそうです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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