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経営組織論と『経営の技法』#296

CHAPTER 11.3.2:ネットワーク型組織の3つのタイプ
②小企業ネットワーク その3

 3つ目の利点は、小企業ネットワークが持つ福祉機能です。福祉機能とは、特定の産業において少数の大企業によって支配される場合よりも、小企業ネットワークで構成される場合のほうが富が均等に分配されることをいいます。また、複数の事業部を持つ巨大企業が中心にいる場合、その富が地域に分配されずに他の地域へと移転されてしまうこともあります。
 一方、小さい企業のネットワークが存在する地域では、そのネットワークによって生まれた富のほとんどは、その地域に還元されると考えられます。また、小企業によるネットワークでは、企業間での融資や機材の貸借、あるいは相互に教育することなど、ネットワーク内におけるさまざまな福祉機能がもたらされます。
 また、小企業ネットワークのうち、地理的に集積したネットワーク型があります。これらを地域ネットワークと呼びます。たとえば、「第3のイタリア」と呼ばれた中部イタリア地域では、繊維や皮革、宝飾、家具といった職人間で細かな分業のネットワークが形成されています。これらの地域では、小企業のネットワークの利点を活かし、市場の動向に対し敏感に反応しながら、伝統工業を発展させています。
 また日本においても、陶磁器や家具など、産地と呼ばれる特定の産業が発展し、その中で分業のネットワークが形成されている地域がいくつかあります。あるいは東大阪市や東京・大田区のように、町工場が分業のネットワークを形成している地域もあります。このような特定の地域に特定の産業が集積することを、産業の地域的な埋込みと呼びます。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』264~265頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 この「組織」を、通常のピラミッド型の組織と比較してみると、組織自体の維持や成長のために必要なコストが(ほぼ)必要なく、ほとんどが構成員となる会社に配分されることになります。「組織」の強さは、構成員となる会社それぞれの強さが基礎になりますから、「組織」自体の維持や成長は各構成員の成長によって実現されます。
 つまり、「組織」による利益は各構成員にダイレクトに配分されますが、それによって各構成員が成長してくれることが前提になっているのです。
 このように見ると、ネットワーク型の「組織」にはこれを構成する会社の成長を促すプロセスが構造的に含まれていると評価できるでしょう。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 このネットワーク型「組織」の構成員である会社の経営者として見れば、頼もしい仲間だからと言って他のメンバーに頼ってばかりいるわけにはいきません。大企業が競争力を高めるために努力しているように、この「組織」では構成員となるそれぞれの会社が努力しているからこそ成長でき、そのために利益がダイレクトに分配されるのですから、それぞれの会社が成長のための努力を怠ってしまえば、この「組織」の競争力があっという間になくなってしまいます。

3.おわりに
 さらに、このような小企業によるネットワーク型「組織」の条件について、検討が続きます。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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