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経営組織論と『経営の技法』#95

CHAPTER 4.3.2:マトリクス組織と一部事業制組織(②一部事業制組織)
 続いて、一部事業部制組織を紹介します。一部事業部制組織は事業部制を基盤に職能別組織の良さを取り入れたものと考えることができます。図4-5が一部事業部制組織の一例です。一見すると事業部制に見えますが、いくつかの点で典型的な事業部制とは異なります。
(図4-5)一部事業部制組織

図4-5

 第1の異なる点は、基礎研究部門など各事業部が共有できる部門を独立させている点です。事業部制の考え方に則れば、基礎研究部門も各事業部に置かれることになりますが、基礎研究そのものは製品に直接的にひもづかないことが多くあります。
 たとえば、トラック、乗用車、バイクを製造販売している企業の基礎研究において、燃料電池によるエンジンを開発することや、ボディ軽量化のための材質の研究をすることは、特定の製品や市場に必ずしもフォーカスする必要はありません。このような基礎研究は、製品別にそれぞれ持つよりは、1つの基礎研究部門として独立するほうが、職能別組織の利点を活かすことができます。
 2つ目の異なる点は、販売部門が職能別に部門化されている点です。基礎研究のように上流がまとまっているのと同じく、この組織図では下流の販売部門も事業部をまたいでまとまっています。これによって各事業部は販売部門、つまり営業部隊を持つ必要がなくなることになります。また、販売部門も基礎研究と同様に、製品に強くひもづいた販売手法でない限りは、まとめることのメリットのほうが大きいと考えられます。
 たとえば、トラック、乗用車、バイクの事業部を持つ企業において、個別でテレビコマーシャルを制作するだけでなく、3つのタイプの乗り物を製造しているメーカーとして、テレビコマーシャルを制作することは、ブランドイメージを高め、3つの事業にとってプラスになると考えられます。
 この図の一部事業部制組織の3つ目の事業部制組織と異なる点は、2つの事業部の下にある工場です。A 工場は2つの事業部の製品を生産している工場になります。工場には当然、工場長が置かれます。工場長は2つの製品の生産に関して責任を持つことになります。工場のスペースや一部の従業員は柔軟に2つの製品の生産に使うことができますが、一方で、2つの事業部からの要求がもたらされる点で、マトリクス組織と同様に工場長はバランスを持って工場の運営について判断をしなくてはなりません。
 このように一部事業部制組織の特徴は、同じ工場長であっても、大きな権限を持つこともあることや、この図のように、職能部署(販売部など)の部長と事業部長(トラック事業部など)が同じ組織図上の位置にあることです。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』90~91頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村修也・久保利英明・芦原一郎/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 リスク管理の観点から見た場合、全体を統括し、一体性を重視すべき機能は、スタッフ部門として事業部横断的な組織と位置付けられ、現場が自ら対応すべきリスク管理機能は、各事業部の現場に任されるでしょう。
 たとえば、内部監査業務は、スタッフ部門として前者を統一的にサポートすべきですから、図4-4の基礎研究部門と同様の位置づけになります。
 これは、コンプライアンス業務・リスク管理業務・法務業務のうちの、全社統括的な面も同様ですが、各現場が自ら対応すべき面は、各事業部門内に担当部門を設けたり、各現場の業務として割り当てたりします。
 この一部事業制組織は、事業部をまたぐ機能とそうでない機能が組織図からすぐにわかるので、会社内外にそれぞれの役割がイメージしやすくなります。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 投資家である株主から経営者を見た場合、会社組織の役割がわかりやすくなりますので、経営者の問題意識がわかりやすくなります。
 たとえば、それまでは法務部と一緒だったコンプライアンス機能について、スタッフ部門としてコンプライス部が分けられれば、組織横断的にコンプライアンス機能を高めようとする意図が見えますし、各事業部にコンプライアンス業務を担当する部門や担当者を置けば、現場のスピードに配慮したコンプライアンスの活用を目指していることが見えます。
 投資家にも見えるほど明確なメッセージを発することは、経営者の意図を組織に伝える方法としても有効な方法であり、そこからも、経営者の適性などを判断することが可能になるのです。

3.おわりに
 たとえば、全社に共通するコンプライアンス統括部が、各事業部の中に設けられたコンプライアンス部や課、担当者などを管理する場合を考えると、そこには2つのレポートラインが見えてきます。このように、前回のマトリクス組織は、一部事業部制組織と共通するところがあるのです。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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