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松下幸之助と『経営の技法』#220

9/22 理念の浸透

~経営理念は社員1人ひとりの血肉となって、はじめて生かされてくるものである。~

 会社としての基本の考え、方針がはっきりしていれば、経営者なり管理監督者としても、それに基づいた力強い指導ができるし、またそれぞれの人も、それに従って是非の判断ができるから、人も育ちやすい。ところが、そうしたものがないと、部下指導にも一貫性がなく、その時々の情勢なり自分の感情なりに押し流されるといったことにもなりかねないから、人が育ちにくい。だから経営者として人を得たいと思うならば、まず自らがしっかりした経営理念、使命観をもつことが先決である。
 さらに、従業員に対しては常にそのことを訴え、それを浸透させていくことである。経営理念というものは、単に紙に書かれた文章であっては何にもならないのであって、それが1人ひとりの血肉となってはじめて生かされてくるものである。だから、あらゆる機会にくり返しくり返し訴えなければならない。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

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1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 松下幸之助氏は、8/8の#175で、組織が力強く発展するために、「何らかの規則、決まり、心得といったものをはっきりと明文化して、それをお互い1人ひとりがくり返しかみしめていくこと」が重要、と説いています。そこで検討したことは、概要、①松下幸之助氏は、従業員にどんどん権限移譲する経営モデルを一貫して採用してきたこと、②だからと言って、自由放任なのではなく、かえって組織の一体性を高めることが重要となり、求心力を高める必要があること、③「規則」は、その意味で従業員も納得して従う状況になれば、求心力の1つとなること、です。
 ここでは、理念の重要性の理由が追加説明されています。
 すなわち、④会社、経営者、管理監督者が、「しっかりした経営理念、使命観をもつ」ことになる、⑤それにより、部下指導に一貫性が出て、人が育つ、⑥それが従業員に浸透すれば、(どのように生かされるかは明確ではありませんが)経営に生かされる、という点です。
 特に、この④~⑥に共通するポイントは、一貫性であり、今の言葉で言う「ブレない」ことでしょう。つまり、④経営者も、⑤従業員も一貫性が出てきて「ブレない」状態になり、それが⑥組織全体に浸透することになれば、会社の組織的な一体性が強くなり、組織のメリットがより生かされてくるからです。
 つまり、権限移譲する経営モデルと組み合わせて考えると、君たちには自由にやってもらうが、この理念を共に実現するために仲間として協力し合うのだ、という組織と個人の関係を決める「ものさし」を作ったことになるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者を選ぶ際に参考にすべき経営者としての資質を、松下幸之助氏の言葉から読み取りましょう。
 ここでは、メッセージがとても明確ですが、従業員の気持ちを1つにまとめる「しっかりとした経営理念、使命観」を打ち出し、その言葉の下に実際に組織をまとめ上げることのできる資質である、ということが理解できます。そのためには、「ブレない」ことも重要です。

3.おわりに
 ハスに構えた従業員も一定割合で発生しますから、「しっかりとした経営理念、使命観」に全従業員が心酔し妄信してくれるわけではありません。むしろ、従業員の自主性や多様性を重視する権限移譲型の経営モデルでは、全従業員が心酔し妄信してしまうと、多様性が阻害されます。
 むしろ逆で、「しっかりとした経営理念、使命観」は、賛同できるところは賛同すれば良いし、賛同できない場合でも、組織を自分の活躍する場として活用することを考える以上、組織と自分との距離の取り方の参考にすれば良いのです。このような意味で「ものさし」として全従業員が活用してくれれば、従業員に権限移譲していったとしても、少なくとも組織と従業員のベクトルが一致し、一体性が維持されます。
 つまり、全従業員が全ての理念に心から賛同することが必要条件ではないのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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