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労働判例を読む#341

今日の労働判例
【独立行政法人日本スポーツ振興センター事件】(東京地判R3.1.21労判1249.57)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、有期契約者Xの処遇が無期契約者と異なる点の有効性等が争われた、いわゆる同一労働同一賃金に関する問題が主に問題とされた事案です。裁判所は、処遇の違いをいずれも有効とし、会社Yの責任を否定しました。
 判断枠組みとしては、近時の多くの裁判例と同様、問題となる手当や処遇ごとにバラバラに検討することや、それぞれの制度趣旨を実際の運用に即して評価し、合理性を検討すること、などの判断枠組みが採用されていますので、ここでは、問題とされた手当や処遇それぞれの判断のポイントを検討します。

1.地域手当
 これは、物価の高い地域に勤務する「無期契約者」と一部の有期契約者(事務職員)にだけ支給される手当です。
 裁判所は、その趣旨に関し、無期契約者は転勤の可能性があるのに対して有期契約者は東京都特別区にしか配置されておらず、勤務地の物価の高低による生活費の差額が生じない、として無期契約者にだけ支給することを合理的としました。
 また、有期契約社員の中でも一部の者(事務職員)にはこれが支給されているものの、これは事務職員については全国に配置されていることなどから、無期契約社員に準じて扱われることの合理性を認めました。
 このように、無期契約者、事務職員、いずれも物価の影響を緩和すべき合理性がある、というのがその主な根拠とされています。

2.住居手当
 これも、無期契約者と事務職員のみ支払われています。
 そして、無期契約者については転勤の可能性があることから、これを合理的であると評価しました。この評価は、比較的多くの裁判例でも認められている理由で、比較的ポピュラーなものです。
 ところが、事務職員についてはこれとは異なる理由で合理性を認めています。
 それは、一方で事務職員には転勤が予定されていないこと、他方で事務職員は同じ有期契約である契約社員と比較すると、学歴や職務経験が給与に反映されにくい構造となっており、同様の学歴や職歴を有する契約社員よりも低い処遇になるため、その差を緩和する必要が高く、住居手当はそのような役割を果たしている、というのがその理由です。つまり、転勤が予定されるから住居費の補助が必要なのではなく、基本給が低いから住居費の補助が必要、という別の理由で、その合理性が認められたのです。

3.実務上のポイント
 同一労働同一賃金の判断枠組みや判断方法は、実務上、かなり定着してきました。
 このように制度が安定してくると、例えば住居手当の違いは有効、等のように簡単に結論だけで整理しようとする発想につながりかねません。けれども、安定しているのは結論ではありません。合理性は、それぞれの手当てや処遇の趣旨によるのであり、それも実際の運用に基づいて(会社の主張する建前ではなく)判断される、という判断枠組みや判断方法が安定しているのです。
 もし本事案で、契約社員の処遇が相当高ければ、少なくとも事務職員と契約社員の間での住居手当の違いは不合理とされたでしょう。
 このように、手当や処遇の名称だけから安易にその違いの合理性を判断しないように、注意しましょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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