松下幸之助と『経営の技法』#219

9/21 一挙手一投足が影響する

~すべての行動が業績に影響する。態度物腰で好感を与えることができているか。~

 先日もある大会社の社長さんにお会いしたのだが、実に丁重である。お辞儀1つでも、こちらが70度ぐらいとすれば、向こうは90度も体を曲げられる。話しぶりも人をそらさなくて、知らず識らず引きつけられてしまう。その会社は業界第1位だそうだが、なるほどこの社長さんなら当然だな、と思わせるものがあった。その人のそうした態度物腰が各方面に好感を与え、それが、その会社を伸ばす大きな力になっていると思うのである。
 そういうことを考えると、経営者にとっては、その一挙手一投足これすべて会社の業績に影響してくるということも考えられる。これは見方によっては、まことに窮屈な話である。しかし、本当はそれが経営者というものである。「そんな窮屈なことはかなわん」というような人には、厳しいようだが、経営者としての資格はないともいえる。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

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1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 いつもと順番が異なりますが、まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者を選ぶ際に参考にすべき経営者としての資質を、松下幸之助氏の言葉から読み取りましょう。
ここでの発言は、9/12の#210の発言と共通する面があります。
 すなわち、9/12の発言では、理髪店の店員のアドバイスを受け、松下幸之助氏が会社の宣伝棟として髪型を気にする様子が語られています。そこでは、2つのことを、経営者たるべきヒントとして指摘しました。
 概要として、①やはり早い段階から従業員の自主性や多様性を重視し、どんどん権限移譲する経営モデルを採用して磨き上げてきた松下幸之助氏だからこそ、理髪店の店員のアドバイスにも耳を傾ける貪欲さが示されたのでしょう。②氏が、自分自身を会社の広告塔であると認識した点から、どこで誰が見ているかわからない、だからどんなときにも気を抜かずにいる、という意識が見える点です。
 ここで松下幸之助氏が紹介する経営者は、少なくともこのうちの②が当てはまる経営者です。
 すなわち、「その一挙手一投足これすべて会社の業績に影響してくる」こと、それは「まことに窮屈な話」であり、それこそが「経営者というもの」なのです。例えば4/26の#71では、「指導者は、体は休息させてもいいが、心まで休ませ、遊ばせてはいけない」という趣旨の発言をしています。経営者としての意識を途切れさせず、いつでも会社の競争力を少しでも高めるように配慮しているのです。
 常に会社のことを考えなければならないので、本当に気持ちを休めることもできません。「そんな窮屈なこと」を厭わない精神の持ち主かどうかが、経営者選択の際に注目すべきポイントの1つです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 ここでも、9/12の#210で検討した内容が参考になります。
 つまり、会社組織は経営者がそのミッションを果たすためのツールですから、会社自体が社会に評価されなければならない、という意識は経営者一人が負うものではなく、会社が組織としてこれを抱き、それに基づいて活動できる状態にする必要があります。
 実際に、経営者自らがこのような態度物腰を継続していれば、従業員もその態度を真似するようになります。経営者は、「背中」で語ることも重要なのです(幣著『法務の技法(第2版)』150頁)。

3.おわりに
 経営者は窮屈である、ということは、松下幸之助氏が折に触れて説いているところです。経営者にもいろいろなタイプがあって当然なのですが、一から事業を興し、大企業に育て上げた氏にとって、大企業を任せるべき経営者の資質について正しく理解してもらいたい、という強い思いがあるのでしょう。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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