松下幸之助と『経営の技法』#293

12/4 人間としての成功

~成功とは、自分に与えられた天分を、そのまま完全に生かし切ることではないか。~

 ”天は二物を与えず”という諺がありましょう。これは裏を返せば、天は必ず一物は与えてくれているということだと思うのですね。
 そのように、異なった天分、特質が与えられているということは、言い換えれば万人万様、みな異なった生き方をし、みな異なった仕事をするように運命づけられているとも考えられます。ある人は政治家として最もふさわしい天分が与えられているかもしれない。またある人は、学者に、技術者に、商人にといったように、みなそれぞれに異なった使命が与えられ、異なった才能が備えられていると思うのです。
 成功というのは、この自分に与えられた天分を、そのまま完全に生かし切ることではないでしょうか。それが人間として正しい生き方であり、自分も満足すると同時に働きの成果も高まって、周囲の人々を喜ばすことにもなると思います。そういう意味からすれば、これこそが”人間としての成功”といえるのではないでしょうか。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 従業員の多様性、という観点で見た場合、その多様な個性を活用するのが経営、ということになります。この発想は、特に松下幸之助氏が磨き上げてきた経営モデル、すなわち権限をどんどん従業員に委譲していく経営モデルでは、ピタリとハマります。対照されるべき経営モデルは、ワンマン会社やベンチャー企業に見かけるように、経営者の決定を忠実に実行することだけが従業員に求められるような経営モデルです。ここでは、従業員の多様性よりも、組織の一体性や突破力が重視されます。経営者のキャパを超えた大きさに成長することが難しくなりますが、特に会社を一定程度成長させるためには、このような経営モデルが適している場合も多いでしょう。
 そして、どのように従業員の多様性を活用するか、という点は経営手腕そのものです。そのためのツールとして、労働法上、会社側に「人事権」が付与されており、特に日本では、一般に従業員の職種変更や人事異動、配置転換を比較的自由に行うことができますから、経営者はこの「人事権」を活用して従業員の能力を引き出すことになります。
 経営者は、広範な「人事権」を有する以上、逆にいえば人材を活用する社会的使命を帯びているとも言えるでしょう。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 経営者が、上記のように経営する会社を使って勝負する場は、経済市場です。しかし、市場参加者は全てが同じ個性の企業ではなく、むしろ競争相手との差別化のために、個性を競い合う面もあります。市場としても、多様な市場参加者による多様な製品やサービスが流通することによって、経済の広がりや厚みが出てきて、より安定した経済社会を作り出すことが可能にありますので、企業の多様性は市場としても歓迎すべきことです。
 そうすると、経営者は、会社の個性を市場の中で打ち出していく必要があります。それぞれの企業にも、天から与えられた使命があると言えるのでしょう。
 けれども、上記のように従業員の個性を重視し、多様性を尊重していくと、下手をすると会社に遠心力ばかり働いてしまい、まとまりのない会社になってしまいます。まとまりのない会社は、それも一種の個性と言えば個性ですが、市場で競争できる状況ではありません。市場で競争し、存在感を示せるような意味での個性ですから、組織としての一体性が前提となった上での、すなわち組織自体の個性です。
 ですから、経営者は、上記のように従業員の多様性を尊重しつつ、会社としてベクトルを合わせ、その個性を打ち出せるような統率力も必要なのです。

3.おわりに
 要するに、従業員にどんどん権限移譲する経営モデルの場合には、多様性と一体性という、一見すると矛盾することを両立させていくのが、経営者の役割となります。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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