松下幸之助と『経営の技法』#116

6/10 企業は社会の公器
~その仕事は、社会が必要とするものか。現在も将来においても、人々が求めるものか。~
 まず基本として考えなくてはならないのは、企業は社会の公器であるということです。つまり個人のものではない、社会のものだと思うのです。企業には大小さまざまあり、そこにはいわゆる個人企業もあれば、多くの株主の出資からなる株式会社もあります。そういったその企業をかたちの上、あるいは法律の上から見れば、これは個人のものであるとか、株主のものであるとかいえましょう。しかし、かたちの上、法律の上ではそうであっても、本質的には企業は特定の個人や株主だけのものではない、その人たちをも含めた社会全体のものだと思います。
 というのは、いかなる企業であっても、その仕事を社会が必要とするから成り立っているわけです。企業がその時々の社会の必要を満たすとともに、将来を考え、文化の進歩を促進するものと開発、供給していく。言い換えれば、その活動が人々の役に立ち、それが社会生活を維持し潤いをもたせ、文化を発展させるものであって、はじめて企業は存在できるのです。こういう仕事をしたいと、いくら自分だけで考えても、それが現在もまた将来においても人々の求めるものでなく、社会が何ら必要としないものであれば、企業として成り立たないと思います。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 会社の社会性については、前日に検討したところですので(#115、6/9の金言)、ここでは、会社の社会性を活用する発想を検討しましょう。
 ここで特に注目するのは、会社と社会の関係を社員に早い段階から認識させることの意義です。松下幸之助氏は、このような話を社内でも繰り返し行っていたようです。つまり、役員の心構えではなく、従業員の心構えとして、会社の社会的役割を話しています。
 このことは、特に大きな会社をイメージすれば、その重要性が理解できます。
 例えば、大きな会社になると、特に若手従業員は自分が会社の中でどのような役割を果たしているのか、実感できないことが多くあります。コールセンターのオペレーターのサポートだけしたり、資料の整理だけしていたり、など、閉ざされた場で限られた人たちとだけ交流し、代わり映えのない仕事が与えられている最初の時期に、会社のことを好きになって主体的に仕事に取り組めと言っても、仕事の手応えや実感が薄い中で、それは無理な話です。せいぜい、職場の人たちはいい人たちだから会社が好き、というレベル(それ自体はとても良いことだけど)で、仕事のどこにやりがいを感じるのか、手応えを感じるのか、という話まで出てきません。
 けれども、たとえ、仕事の幅を広げることや、レベルを上げることは、少しずつだとしても、それと合わせて、自分の会社の社会での役割を外から見て理解する機会があれア、将来の自分の仕事のイメージも具体的になりますし、自分の仕事がどのように(会社を通して)社会に関わっているのかを理解できます。
 このように見れば、会社の社会性を内部統制に活かす方法として、会社の社会での位置付けや役割り、存在意義を意識的に従業員と共有し、従業員の教育やモチベーション、帰属意識などの向上に活用する方法が考えられるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、会社全体のことは自分が考える、従業員は自分の指示したことだけやれば良い、という発想の経営者がいます。
 しかしそれでは、ここで指摘したような従業員の成長が期待できません。いうことを聞く人ばかりになれば、自分で考えるリーダーがなかなか育ちません。次の経営者どころか、組織維持に必要な中間管理職の実力も伸びず、経営者が細かいことまで目を光らせ、口を挟まなければならない状況が続くことになります。
 後継者の問題は、しかるべき人を社外からヘッドハントすれば良いかもしれません。けれども、中間管理職が育たなければ、会社組織は、経営者の目の届く範囲を超える大きさにすることができません。
 確かに、あまり大きくなくても良いから、しっかりと稼いでくれる会社にして欲しい場合に、経営者に求められる資質は、会社全体に目が行き届く強烈な存在感や指導力かもしれません。
 けれども、個人の力量に頼る部分が大きい、振れ幅の大きい会社ではなく、組織的な活動が行われ、持続的で安定した経営を確立するためには、後継者や中間管理職を積極的に育て、どんどん任せていける資質が必要になります。
 簡単に「素晴らしい人間」かどうか、というような観点から経営者を選ぶのではなく、会社をどのように作り上げていくのか、そのために求められる経営者の資質は何か、まで考慮した経営者選びが必要となるのです。

3.おわりに
 理屈の整理は難しいですが、今やだれに聞いても、会社は株主のものかもしれないが、社会と無関係に存在しない、すなわち、会社経営は、社会に受け入れられるかどうかも考慮しなければ、社会の中で存続できず、ましてや利益を上げることもできない、ということは理解しています。
 それを、株式会社のガバナンスの構造に解を求めるのか、コンプライアンスやCSR、企業の社会的責任、ノブリスオブリージュなどのように、会社の社会的な位置づけに解を求めるのか、様々な考え方が可能です。
 けれども、共通するのは、それを単なる抽象論で終わらせるのではなく、実際の経営に生かそうとする具体的な対応です。
 特に、会社が大きくなると、社会との関係を気にする機会もないまま、組織の中の理論ばかり濃くなっていく立場の従業員が増え、それが会社と社会を乖離させる大きな原因となります。
 このように、会社が大きくなるほど、社会とのかかわりを意識的に認識させることの重要性が高まっていくのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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