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松下幸之助と『経営の技法』#71

4/26の金言
 指導者は、体は休息させてもいいが、心まで休ませ、遊ばせてはいけない。

4/26の概要
 松下幸之助氏は、以下のように話しています。少し長いですが、そのまま引用しましょう。
 指導者といえども、四六時中仕事をしていなくてはならないということではない。それではとても体がもたない。だから時に休息したり、あるいはレジャーを楽しむということもあっていいと思う。ゴルフをするなり、温泉に行くのもそれなりに結構である。しかし、そのように体は休息させたり、遊ばせたりしていてもいいが、心まで休ませ、遊んでいるということであってはならない。
 たとえ温泉につかっていても、心のほうは、政治家であるなら政治のことを、経営者であるなら経営のことを、どこかしらで考えているということが大切だと思う。そうであれば、アルキメデスのごとく、お湯のあふれるさまからも何かヒントを得ることにもなってこよう。
 全く遊びのうちに心を許してしまうというような人は、厳しいようだが、指導者としては失格だと思う。

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 経営者のあり方を論じていますので、ガバナンス面での議論が、松下幸之助氏の本来の言わんとするところですが、内部統制の問題として見た場合、何がポイントになるでしょうか。
 1つ目は、組織体制です。
 経営者の感性を組織が担う、という観点から見れば、経営者が一人で背負っていて、温泉の中でも忘れてはいけない問題意識を、組織がどのように分担し、機能させるのか、という組織論が問題になります。常にアイディアを探す役割や、常に経営上の問題点を探す役割など、経営者が常に意識すべき問題を担う部署をつくるのが、手っ取り早い方法でしょう。経営企画部、社長室、など、いわゆる「ブレイン」と称される役割です。
 2つ目は、組織の余力です。
 組織も、四六時中仕事をしていると、余力がなく、いざというときに戦えません。会社組織のスリム化や効率化など、会社組織のダイエットが盛んに議論されますが、会社を人体に例えてみればわかることです。ダイエットをしても、それだけで当然に筋肉がつくわけではありません。コストカッターと言われる剛腕外国人経営者によって奇跡のV字回復、と一時期もてはやされたものの、実際は整理解雇によって人員をギリギリまで絞り込んだことが主な原因であって、回復後の新製品開発力や営業力が大幅に低下し、回復後の業績の伸びが止まってしまった会社もあります。
 すなわち、経営者にも休息が必要なように、組織にも、いざというときに動員をかけられるように従業員に余裕のある状況を作り出し、製造機械など生産設備もフル稼働ではない状況にとどめ、在庫もギリギリに削らない、等の対応が、戦略的に考えられるのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者自身のセルフコントロールの問題として、ここで松下幸之助氏が言う文字通りのことが、経営者に当てはまります。すなわち、常に余裕を持っていなければならないが、他方で、会社経営の重大な課題は常に心にとどめる、ということです(体を休めて、心を休ませない)。
 次に、内部統制に関して検討したように、会社組織に余力を持たせる面と、重大な経営課題について常に問題意識を持ち続けさせる面の、両方が必要であり、そのような要請を両立させる組織運営のできることが、経営者の素養として考えられるのです。

3.おわりに
 逆に、趣味に没頭している間は仕事のことを全て忘れて、頭の中が真っ白になることが大事、という経営者もいます。けれども、そのような経営者も、趣味の活動の空き時間にメールをチェックするなど、大事なことを完全に頭の中から追い出す時間は極めて限定的で、松下幸之助氏と言っていることは同じように思われます。
 どう思いますか?

※ 「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
 テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。



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