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松下幸之助と『経営の技法』#274

11/15 長所に7分、短所に3分

~人間には誰しも長所と短所がある。主として長所を見、伸ばすよう心がけたい。~

 人間というものには、誰にも、長所と短所がある。そういさまざまな長所と短所をもつ人を使って仕事をしていく場合、努めてそれぞれの人の長所を見ていくことが大事だと思う。長所を見れば、「彼はなかなか立派な男だ」ということになって、かなり大胆にその人を使うことができる。またその人も、自分の長所を認めてもらえれば嬉しいから、張り切って仕事をする。いきおい仕事の成果もあがり、その人も育つ。
 ところが、短所に目がいくと、「この男はこの点がダメ、あの男はここがもうひとつ……」ということになるから、なかなか思い切った起用ができない。またそう見られたほうも何となく面白くないし、委縮してしまって、十分な成長ができなくなる。
 だから、長所ばかりを見て短所を全く見ないということではいけないだろうけれども、主として長所を見て、その長所を伸ばしていくように心がける。長所に7分、短所に3分といった目の向け方をしていくことが大事だと思う。

(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 松下幸之助氏は、「叱り方」に言及するなど、「叱る」ことの重要性を繰り返し指摘する一方で、山本五十六のいわゆる「やってみせ」のような、「褒める」ことの重要性も繰り返し指摘しています。
 これらの点は、繰り返しになるのでここではこれ以上の検討をしません。
 ここで特に注目されるのは、松下幸之助氏は「叱る」「褒める」に関して、矛盾し、ブレたことを言っていたのではない点です。両者は割合の問題であり、選択の問題ではないのです。だからこそ、この両者を含めた「信賞必罰」という言葉が重要である、と話しているのです。
 また、その割合について明言しています。「褒める」:「叱る」=7:3です。「褒める」方がメイン、という印象です。
 私自身が、自分の部下や、契約書審査に訪れる他部署の部員に指示したりアドバイスしたりした時の印象では、「褒める」割合がもっと大きかったようにも思いますが、それは私の主観であって、傍から見るとこの程度だったかもしれません。依頼したことを嫌がらずに引き受けてもらうためには、「褒める」方がメイン、ということは、私自身の感覚から見ても同感です。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、「褒める」ことしかできない経営者も、「叱る」ことしかできない経営者も、共にリスクがあり、投資対象として見た場合に注意すべきポイントになります。
 すなわち、「褒める」だけだと、従業員は甘えて働かなくなり、「叱る」だけだと、従業員は委縮して言われたことしかしなくなる危険があるからです。
 だからと言って、「褒める」「叱る」のバランスが良いだけで、個性も魅力もない経営者であれば、よほど上手に裏方に徹して、従業員たちを盛り立てるタイプでない限り、従業員の先頭に立ってリーダーシップを発揮することが期待できません。
 どのような経営者に経営を託すのか、という問題は、人間観察力の問題であり、だからこそリスクを伴う「投資」判断なのです。

3.おわりに
 「長所を見る」「短所を見る」という視点も、経営者らしくて興味深い視点です。
 「短所を見る」タイプの経営者は、実際に誰に仕事を与えるのかを考える際、リスクの小さい人選を行うでしょうが、逆に、松下幸之助氏のように「長所を見る」タイプの経営者では、当たれば大きい人、つまりメリットの大きい人選を行うでしょう。
 さらに、実際に仕事を与えた後も、「短所を見る」タイプの経営者は、まず失敗していないのかを気にするでしょうから、石橋を叩いて渡るような仕事ぶりになりやすいでしょうが、「長所を見る」タイプの経営者は、うまくいっているのかを気にするでしょうから、積極的な仕事ぶりになりやすいでしょう。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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