経営組織論と『経営の技法』#48

CHAPTER 2.2.4:分業のデメリット・まとめ
 分業のデメリットのどちらも、組織を構成するのが人間だから起こってしまう問題です。もし未来に、すべての組織の活動がロボットによってなされるような組織ができることになれば、分業によるデメリットは起こることがなくなり、分業をどんどん進めていくことは、直接メリットだけを増やすことになるでしょう。
 しかし、現在は自動化がかなり進んだ工場のような組織であっても、人間の力を組織は必要としています。それを踏まえれば、分業をやみくもに進めればよいというわけではなく、適切な分業の在り方をその組織で考えていく必要があることがわかるでしょう。
【出展:『初めての経営学 経営組織論』36頁(鈴木竜太/東洋経済新報社2018.2.1)】

 この「経営組織論」を参考に、『経営の技法』(野村・久保利・芦原/中央経済社 2019.2.1)の観点から、経営組織論を考えてみましょう。

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 もし、鈴木教授の言うように全てロボットが活動を担うようになれば、それでも会社は「組織」なのでしょうか。むしろ、少し複雑だけれども、機械そのものであって、人間を相手にした「組織論」とは違うアプローチが必要になってくるのではないでしょうか。
 これは、余談です。
 さて、リスク管理の観点から見ると、人間がかかわらなければならない領域として、リスクセンサー機能、リスクコントロール機能、経営判断があります。
 リスクセンサー機能は、会社組織を人体に例えると理解できると思いますが、皮膚全体に張り巡らされた神経網や、目・耳・鼻などの特殊な器官です。後者は、法的なリスクなどに関する法務部のように、専門家だからこそ気付くリスクに対するセンサー機能を有する部門です。前者は、日常業務の中で気づくべきリスク、たとえば、いつも購入している原材料の品質が悪い、というリスクを考えてみましょう。このリスクは、現場の担当者が、少し違和感がある、と感じてもらい、報告してもらわなければ、会社として認識ができず、あるいは認識が遅れてしまい、見逃したり、対応が遅れたりします。
 しかも、このような「違和感」は、全て機械化することは難しいでしょう。素材の品質であればまだしも、取引先担当者の様子がおかしい、ぎこちなくて仕草がいつもと違う(倒産を隠しているのか?)、製造機械の様子がおかしい、変な音がするような気がする(故障か?)、資産運用している「債券」相場の動きがおかしい、普段なら相場が下がるニュースに相場が反応しない(大きなファンドが債券を買い漁っているか?)、いつも元気なA君の様子がおかしい、電話が鳴ると怯えているように見える(いじめか?)、などなど、現場の従業員それぞれが、「違和感」をフル活用してくれるからこそ、会社はリスクに気付くことができます。蚊に刺されたような微細な情報ですら、人間の皮膚は感じ取って、脳に報告してきますから、会社の各現場のリスクセンサー機能も、同様にとても大切なのです。
 また、リスクコントロール機能(+経営の決断)は、リスクの種類や大きさによって、判断・対応する部門や担当者が変わってきます。
 同じく人体に例えれば、傷口からばい菌が侵入すれば、体液の中のさまざまな抗体細胞(白血球や血小板など)が攻撃をし、体内に拡散するのを防ぎます。現場が直接自らリスクコントロール(ここでは、リスク排除・回避行動)を取るのです。
 また、熱いものに触ってしまった時には、脳の指示を待つまでもなく条件反射的に手を引っ込めます。部門長や担当役員の判断でリスクコントロール(ここでも、リスク排除・回避行動)をとるのです。
 また、目の座った怖い人がこちらを見ながら歩いてきているのに気付いた時には、頭で考えて、横道に逃げたりします。経営判断でリスクコントロール(ここでも、リスク排除・回避行動)をとるのです。
 さらに、疲れているけれどももうひと踏ん張り頑張ろう、という時には、頭で考えて、糖分が気になるけれども栄養ドリンク剤を飲んだりします。経営判断でリスクコントロールし、リスクを取る決断をし、実行するのです。
 このように、リスク管理に関する諸機能は、人間でなければ難しいものが沢山あるように思われます。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 ガバナンスは、リスク管理の観点から見ると、株主による経営の事後チェックが中心となり、それが牽制として機能することを期待します。
 ここでは、監査(つまり、事後チェック)の手法が中心となりますので、会社の経営や事業のうちの技術的な面を除けば、やはり人間としての活動の合理性をチェックすることになります。つまり、百パーセント間違いのない判断や言動が期待されるわけではなく、常識的に合理性が認められるかどうかを事後的にチェックすることになりますので、チェックする側として、機械化は難しそうですし、チェックされる側も、そもそも上記1のとおり人間の言動が対象です。もし、チェックされる側が人間でなければ、それは機械の定期点検のようなものとなり、ガバナンスとは少しニュアンスが異なってきます。
 このように、ガバナンスも人間が前提となっていると考えるべきです。

3.おわりに
 話が少しそれましたが、リスク管理の観点から見た場合の分業のデメリットは、自分自身でリスク管理しようとしなくなってしまう、という従業員の意識の面が一番深刻な問題です。上記のとおり、会社のリスクは現場の全ての従業員が日常業務の中で感じなければならないからです。
 当事者としての意識や責任感を失わせないような制度設計を考えましょう。

※ 鈴木竜太教授の名著、「初めての経営学 経営組織論」(東洋経済)が、『経営の技法』『法務の技法』にも該当することを確認しながら、リスクマネージメントの体系的な理解を目指します。
 冒頭の引用は、①『経営組織論』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に、鈴木竜太教授にご了解いただきました。


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