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松下幸之助と『経営の技法』#360

2/9 先輩に尋ねてみる

~自信がない時は先輩に尋ねてみる。そうして正しい判断を下していく。~

 自分で考えても、なかなか判断がつかないこと、自分には適性があるのかどうか、自分の会社にはその適性があるのかどうか、という正しい評価を下せないことも、度々あると思う。そのような時に、私はどう対処してきたかというと、私はそれを周囲の人々に尋ねたのである。いわゆる先輩といわれる人に、「今、自分は非常に迷っています。この仕事がやりたいのですが、はたして自分に、また会社に、その実力があるかどうか。自分や会社に適した仕事であるかどうか。私にはわからないのです。あなたとしてはどうお考えになりますか」というように尋ねてみる。
 その人は利害関係のない第三者であるから、「君は今、幸いうまくやっているが、そこまで手を伸ばしたら危ない。やめておいたほうが賢い」というように教えてもらえる。それで納得がいくときは、そこでやめておく。けれども、そう言われても、なおやりたいと思う時がある。そんな時には、第二の人に、もう一度尋ねてみるのである。そして、その人から同じことを言われると、相談を持ち掛けた2人までがいけないと言われた、自分にもはっきりした自信がなかったのだから、自分も危ないと思っている、それならばやめておこう、というように考えるのである。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者は投資先です。しっかりと儲けてもらわなければ困りますが、投資家も、経営者の資質を見極めなければなりません。
 ここでは、経営者が経営判断する際、どのようにその責任を果たすのか、が問題になります。
 1つ目は、誰が経営判断するのか、誰がその責任を負うのか、という問題です。
 ここでの松下幸之助氏の言葉から誤解する人はいないと思いますが、人のアドバイスをもらうからと言って、氏が自らの責任を放棄しているわけではありません。経営者として責任ある立場にある自分自身が、責任ある判断をするために、人の意見を参考にしているだけで、後になって「アドバイスした人が悪い」等の言い訳や責任逃れをするわけではありません。
 この前提は、間違えないでください。
 2つ目は、アドバイスを受けることの意味です。
 言い訳や責任逃れではない、責任はあくまでも経営者自身が負う、けれども、アドバイスをもらうということに、どのような意味があるのか、という問題です。
 これは、デュープロセスの観点から考えてみましょう。十分検討し、できるだけのことをやった上での決断であれば、たとえ結果的に失敗しても、法的な責任が免じられたリ減ったりします。経営判断の原則と言われることもありますが、日本古来の表現で言えば、「人事を尽くして天命を待つ」に該当します。
 多くの場合、十分検討する、ということは、例えば法律や技術の専門家の意見を確認する、等を意味しますが、ここでは、経営者自身が同じ経営者の意見を聞く、という意味になります。聞いて参考になる人に聞かなければなりませんから、「いわゆる先輩といわれる人」に聞くことになります。逆に言うと、「いわゆる先輩といわれる人」は、経営者としての経験が豊富で、経営判断する際のポイントを気づかせてくれる資質の持ち主、ということになります。
 このように見れば、経営判断をより合理的にするために、経営の専門家の意見を聞くことの意味や、活用する際のポイントも分かってきます。経営コンサルタントに高いお金を取られて、そのアイディアや指摘に何の工夫や迷いもなく乗っかるだけでは、経営者自身が判断したことになりません。「人事を尽くして天命を待つ」に相応しい活用が必要です。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 ここでは、経営者の最後の決断の段階で、「いわゆる先輩といわれる人」の意見を聞く、というプロセスが指摘されました。
 会社組織の問題として見た場合、経営者自身でこのようなプロセスを踏まなくても良いように、組織自体がこのようなプロセスを実践するように、組織やプロセスを作り上げ、実際に機能させることができれば、経営者も安心して決断できる状況になります。
 そうは言っても、経営者でしかわからないポイントを、経営者に聞く、という場面は残ってしまうでしょう。
 けれども、逆に言うと、経営者でしかわからないポイントを炙り出し、経営者自身が自らの責任を果たすために、経営者自身に必要な情報やアドバイスを獲得する、という役割分担に徹することができれば、すなわち、本来であれば会社組織の方でできる検討が不十分として、自ら補充的な調査や検討が必要な状態でなければ、経営者は経営判断に専念できることになります。「いわゆる先輩といわれる人」に相談できる状況は、そのような意味で、経営者が経営判断に専念できる幸せな状況、と言えるでしょう。

3.おわりに
 繰り返し確認しますが、ここでの話は、経営者が会社を信頼できなくて外の意見を聞く場面ではありません。会社を信頼し、会社のプロセスが十分だからこそ、経営者としての責任を果たすための「いわゆる先輩といわれる人」への相談ができるのです。
 むしろ、経営者としての仕事に専念できるような状況を作り出していた、だから松下幸之助氏は凄い、ということのように考えるべきでしょう。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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