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松下幸之助と『経営の技法』#254

10/26 共存共栄の理念
~人間同士、共存共栄の理念は、長くつきあえばわかってもらえるものである。~
 例えばオランダは、国土が九州よりも狭く、国内だけを相手にしているのでは大企業は成り立っていかない。大きな会社は全部、海外で仕事をしているんです。そのことが本国のオランダを益し、相手国にも何らかのかたちでプラスになっている。この姿に刺激されましてね。
 松下電器も、日本の将来を考えると、やはりそこまでやらないといけない。やれるのならやるべきだ。では、やるのならどんな理念に基づいて実施すべきか、となりました。欧米の会社の真似をするだけではお粗末ではないか。松下電器としての1つの意義を見出さなければならない。そこで僕は、共存共栄の理念を明確に打ち出すことを決意したのです。相手方が、いわゆる発展途上国の場合には、商売をするんじゃない。相手の国がどうしたら栄えていくのか、を最重点に考える。その国を発展させ、その国の利益を生み出す仕事をしていこう。そうはっきりと腹を決めました。共存共栄の理念は、話せばわかってくれます。一時は誤解があっても、長くつきあえばわかってもらえるものなんです。お互いに人間じゃありませんか。
(出典:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 ここで松下幸之助氏が論じている経営の手法は、マーケットを育てる、市場を作り上げていく、というもので、日本でも「三方良し」等の言葉で教訓として示されてきた経営の在り方です。
 ところがこの発想は、短期的に利益を上げることを求める株主が多くなると、なかなか実行できません。マーケットで短期的に収益を上げて、駄目になったらその市場を見捨てて撤退してしまう、という発想につながります。
 このように、自分たちだけが収益を独り占めせず、市場にも収益を還元しながら、長期的に自分自身の収益源となるように育てるのは、経営戦略的に見れば、その市場での存在感や発言力を増すことにもつながりますので、経営的に有効であることは、誰でも容易に理解できるところです。
 そして、このような戦略が、実はガバナンスの構造にも合致する面があります。
 それは、経営者のミッションです。
 すなわち、株式会社は所有と経営を分離させるための装置であり、容れ物でありますが、投資家である株主は、本来、株式の配当から回収しようと考えるところです(株式を売って投下資本を急いで回収するのは、副次的な安全弁だったはずです)。そうすると、仮に年5%回収できたとしても単純計算で20年かかる話ですので、会社には20年以上稼いでもらわなければ困ります。
 つまり、例えばハゲタカとイメージされるような営業戦略、つまり短期間で荒稼ぎして市場を荒らし、収益が上がらなくなれば撤退する、という戦略は、本来の株主の投資戦略に合致しないはずなのです。実際、近時、短期的な収益を重視してきたアメリカでも、中長期的な収益と、それに合致した投資方針や経営方針が重視されるようになってきました。
 このように中長期的な投資方針から考えれば、経営者のために「継続的に」利益を上げることが経営者のミッションになりますので、市場を「食い物」にするのではなく、市場を「育てる」ことも、重要な戦略になるはずなのです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社の内部の問題を考えましょう。
 市場を育てる、という言葉を会社組織全体に浸透させることが、経営者にとって重要な経営戦略となります。なぜなら、会社は経営者のミッションを実現するためのツールだからです。
 ところが、その場合、露骨に「会社の利益のため」「儲けるため」と言うと、気持ちが乗ってこない従業員が出てきます。
 その点、「共存共栄」という言葉は、自分の仕事が社会に貢献している、人のためになっている、ということを実感させてくれる言葉であり、これに共鳴できる従業員も増えてくるでしょう。もちろん、そんなきれいごとではなく、正直に「儲けるため」と言ってくれた方がすっきりする、と言う従業員もいるでしょうから、両方を使えば良いのですが、「共存共栄」という言葉は、「市場を育てる」という経営方針を会社組織内に浸透させるためのツールとして見ても、合理性が認められるのです。

3.おわりに
 企業の社会的責任、IR、CSR、環境経営、等、会社の社会に対する配慮の重要性は、常に言葉や概念を変えながら言われ続けていることです。そして、遡れば松下幸之助氏の時代からいわれていたことであり、さらに言えば、江戸時代の「三方良し」のような言葉にまでつながっていくのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出典を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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