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松下幸之助と『経営の技法』#181

8/14 銀行

~手元に容易に金が入ることは危険である。潤滑油も多すぎると、流れてしまう。~

 我々の経験でいうと、銀行が容易く金を貸してくれる場合は、大抵の人が危険に臨む。銀行が渋って渋って貸しているとうまくいく。だから銀行が金を使えという時には、よほど注意しなければならない。平生間違わないでやっている人間でも、銀行が今金があいているから使ったらいいという場合には失敗することが多い。正直に要るだけの金を借りに行って、80%貸してくれるという状態が続いたら、その人はいちばん安全である。それを、いや、そんな金はわけないよ、といって、10億といったのに20億貸してやるといったら、その男は心が大きくなるから、気をつけなければならない。容易く金が入ることは、非常に危険である。潤滑油も多すぎてはいけない。流れてしまう危険が多い。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 お金が余っているとなぜ危険なのでしょうか。
 よく言われるのが、上場企業でお金が内部に余っている場合、M&Aの攻撃対象になる危険がある、という外来の危険です。会社を買ったら、沢山のお金が戻ってくる、つまり、キャッシュバックを受けられるような状況です。内部にため込んだお金の分、会社や事業の購入価格が値引きされるのと同じだからです。
 けれども、ここでは内部的な危険が問題になっているようです。
 1つ目は、お金を活用する方法が見当たらない状況である、という可能性が高いことです。新規事業への投資だけでなく、例えば既存の事業の改良であったり、基盤の強化であったりしても、いずれも将来の発展のための投資と評価できますが、それがないということは、将来の発展の可能性が見当たらず、成長が止まってしまっている、と評価できるのです。
 2つ目は、むしろこちらのことを言っているのでしょうが、財務規律の緩みです。
 松下幸之助氏は、折に触れて、ムダ使いをたしなめています。8/11の#178などで、その内容を見てほしいのですが、お金が余っている状態だと、特に経理部門による出費のコントロールが弱くなります。「お金がないから」という理由が通じなくなるからです。
 これに対しては、お金が無くなった時に出費を引き締めればいいではないか、という反論もあります。
 けれども、家庭生活でもそうですが、一度出費が増えると、そのレベルを前提とした固定出費が増えていきます。それまで、費用が決まっていた賃貸オフィスだったのが、コストのかかる自社ビルのオフィスに変えた場合、収入がなくなったからと言って簡単に自社ビルを処分して元のオフィスに戻ることなどできません。都合よく元のオフィスが空いているかどうか、都合よく自社ビルに買い手がつくかどうか、が分からないだけでなく、引っ越しの度にコストがかかるからです(引っ越し貧乏)。
 3つ目として、このような状態を、会社を人体に例えて考えてみましょう。
 すなわち、会社は参加している競技種目の中で、競合他社と競争しているスポーツ選手です。競技に勝つために、製品やサービスを少しでも良く、安くして他社と差別化しなければなりません。
 もちろん、競争に必要な部分の筋力などは、大いにつけなければなりません。ですから、いつもお腹を空かしていればよい、というのではなく、必要な部分にはタップリとお金を注ぎ込み、競争力を高める必要があるのです。
 けれども、お金がだぶついている状態は、余剰人員を抱えている状況と同様に見れる場合があり、その状態は、ぜい肉が付いている状態に例えられるでしょう。ぜい肉がついているようなスポーツ選手が競技に勝てるほど、生易しいものではありません。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、経営者のお金の使い方も重大な問題になります。
 すなわち、贅沢をせずに、ケチと言われるくらいにお金を節約しつつ、ここぞという場面では惜しまずにお金を使う、というのが、昔から言われていることですが、経営者に求められる金銭感覚でしょう。
 そうすると、銀行がお金を安易に貸してくれる時であっても、これに簡単に手を出さないように、自らを律することができる資質も、経営者に求められることになるのです。

3.おわりに
 潤滑油は燃えるのか、ということを調べてみると、たしかに500度でも発火しないものもありますが、200度を超えた程度でも発火するものもあります。6/20の#126で、松下幸之助氏は、お金を「社会の」潤滑油と例え、社会や生活の向上という目的のための、手段に過ぎない、と説明しています。
 会社の中でお金がだぶついている状態というのは、社会や生活を向上させるという目的が達成されていない状態である、という言い方ができるかもしれません。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。


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