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労働判例を読む#614

今日の労働判例
【千代田石油商事事件】(東京地判R 3.2.26労判1312.73)

 この事案は、特殊な運搬船舶に、ガスや石油を積み込んだり下ろしたりする作業に関し、立ち会って通訳業務を行う会社Yが、かかる業務を行う従業員Xから、残業代や休憩時間中の勤務などに関する賃金が一部未払であるとして、その支払いを求められた事案です。
 裁判所は、Xの請求の一部を認めました。

1.労働時間の認定
 ここでは、労働時間がしっかりと管理されていない状況で、何に基づいて始業時間・終業時間を認定するかが問題となりました。
 X自身が記入し、記録していた情報に関し、その内容が他の場合と比べても合理性がある、等と認定されている部分があり、当事者の一方が作成し、相手方が検証していない証拠であっても、合理性の認められる場合があるとして、参考になります。

2.休憩時間
 ここでは、休憩時間にも待機していたので労働時間である、とXが主張しています。
 しかし、休憩時間中の状況が監視されていたわけではなく、緊急対応の頻度も低く(3%~5%程度)、まとまった休憩、仮眠時間を取ることができていた、等として、Xの主張が否定されました。
 指揮命令下にあるかどうか、という伝統的に多く用いられてきた基準ですが、その具体的な適用事例としてみた場合、多くの裁判例の傾向と異ならない、と評価できるでしょう。

3.実務上のポイント
 さらに、残業代の算定にあたり、夏季休暇を控除すべきであるという原告の主張が認められています。
 また、付加金の認定につき、Yの側に「残業代を支払わないことについて宥恕すべき事情があるとまでは認め難い」という理由で、賦課金を認めました。特に後者については、会社側が残業代不払いの合理性を証明しなければならないことになります。諸事情を総合考慮する、という判断が多い中で、会社側にとって厳しいようにも見えますが、両立するようにも見えます。
 付加金は裁判所の裁量、ということではありますが、判断枠組みがより明確に整理されていくことが望ましいはずですから、今後の展開が注目されます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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