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松下幸之助と『経営の技法』#295

12/6 天命に素直に従う

~人事を尽くし、静かに慌てずに天命を待つ時、必ず次の新しい道が自然とひらけてくる。~

 あなたにはあなた、私には私に与えられた天命がある。この天命には、素直に従うことが、私は必要だと思います。
 人事は尽くしても天命を待つことを知らない。そういう傾向を、私は現代に見ます。これだけやったのだから、これだけ報われなければならない、という考え方です。それも当然のことでしょうが、しかしそこに、悩み、争いが生じる大きな原因があるのではないでしょうか。
 あなたのこれからには、さまざまな困難があるに違いない。しかし、どんな時でも志を失うことなく、私心にとらわれず、あなたの可能な限りの努力をしてほしい。そして、次の事態を静かに待つ。期待通りにいくこともあり、期待にそむかれることもあるでしょう。それはあなたの力を超えたものの働きだと思います。
 どのような力が働こうと慌てることはありません。あなたはできるだけのことをした。そうして待つ時、必ず次の新しい道が、自然とひらけるのではないでしょうか。
(出展:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.内部統制(下の正三角形)の問題
 まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
 「人事を尽くして天命を待つ」という言葉は、会社の経営判断の基本です。なぜなら、経営判断をしてリスクを取り、チャレンジするためには、「人事を尽くす」ことによって、リスクマネージメントを十分行い、その上で経営者が責任をもってリスクを取る判断をして、決断したことを実行し(ここまでが「人事を尽くす」)、成功することを待つ(「天命を待つ」)のです。
 経営者の仕事は「儲ける」ことであり、「儲ける」ことが社会に対する貢献でもあります。
 しかし、「儲ける」ためにはリスクを避けてばかりでは駄目です。利益は、リスクがなければ取れない、ということが、古今東西共通の経験です。
 けれども、経営は博打ではないので、リスクは適切にコントロールして取らなければダメです。そうでなければ、経営者は当然、経営責任だけでなく、場合によっては法的責任も負うことになります。
 そのために、リスクを十分コントロールした上で経営判断を行う必要があります。法律上も、デュープロセスを踏まえ、充分リスクマネージメントされたうえでの決断であれば、法的責任が減免されます。
 このように、「人事を尽くして天命を待つ」という言葉は、経営判断の大原則です。失敗もある程度覚悟した上での決断が必要であり、だからこそ、松下幸之助氏が「これだけやったのだから、これだけ報われなければならない」という考えを否定しているのです。

2.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 投資家である株主と経営者の関係で見た場合、リスクの取り方を知っていることが、経営者の資質の大前提になるでしょう。努力は必ず報われる、等という甘えた考えではダメで、しかし逆に、何も努力しないようでもダメ、人命を尽くしつつ、天命を待つことができる、という発想です。これがなければ、経営の大原則であるリスクマネジメントもできないですし、万が一経営判断が誤っていて失敗した場合に、その失敗を受け容れることができません。自分の判断の責任を認められない経営者が惨めなことは、説明するまでもないでしょう。部下のせいにして、組織がバラバラになったり、製品やサービス、経営を改めることができずに、事業が続かなかったりします。
 「人事を尽くして天命を待つ」という言葉は、経営者の資質としても重要なのです。

3.おわりに
 このように、「人事を尽くして天命を待つ」という言葉は、個人の人格に関わる場面だけでなく、経営に関する様々なレベルでも重要な意味を持ちます。
 もしかしたら、松下幸之助氏が、個人の人格の問題として「人事を尽くして天命を待つ」という言葉を使って説明していることは、会社経営の経験や在り方から導き出されたことかもしれません。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出展を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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