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松下幸之助と『経営の技法』#256

10/28 企業発展の唯一の道

~すべての関係先との共存共栄こそ、企業が発展を続ける唯一の道となる。~

 企業が事業活動をしていくについては、いろいろな関係先がある。仕入先、得意先、需要者、あるいは資金を提供してくれる株主とか銀行、さらには地域社会など、多くの相手とさまざまなかたちで関係を保ちつつ、企業の経営が行われているわけである。そうした関係先の犠牲において自らの発展をはかるようなことは許されないことであり、それは結局、自分をも損なうことになる。やはり、すべての関係先との共存共栄を考えていくことが大切で、それが企業自体を長きにわたって発展させる唯一の道であるといってもいい。
 例えば、需要者の要請に応えてコストダウンをしていくために、仕入先に対して値段の引下げを要請する。これは、どこでもよくあることである。しかし、その場合に、ただ値引きを要求するだけではいけない。値段を下げても、なおかつ先方の経営が成り立つ、言い換えれば、先方の適正利潤が確保されるような配慮が必要なのである。私自身は常にそのように考えてやってきた。
(出典:『運命を生かす』~[改訂新版]松下幸之助 成功の金言365~/松下幸之助[著]/PHP研究所[編刊]/2018年9月)

2つの会社組織論の図

1.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
 まず、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
 2段落目では、仕入先に対する配慮が語られています。仕入先の儲けにも配慮したコストカットの要求は、現在も時々耳にする話です。
 例えば、同じ業界の中でも、業界トップの比較的余裕のある会社の場合には、仕入先・下請先を育てる意識があり、技術指導や共同開発も含め、サポート体制が充実しているだけでなく、仕入価格の設定についても、コストカットを強く求めるものの、仕入先・下請先によって実現可能なプランも併せて提案するなどの、配慮があります。
 けれども、業界トップでない会社で、自身に余裕のない会社の場合には、仕入先・下請先を育てるという意識よりも、そこからどれだけの利益を削り取れるのか、についての意識が強く、コストカットの要求についても、具体的にどのようにコストカットするのかを考えるのはそちらの仕事、ここまでコストカットした結果が出せないなら、取引を打ち切るまで、という交渉になります。
 もちろん、ここで示した例は極端な例であり、仕入先・下請先に対する配慮がこの両極端な2通りだけなわけではありません。
 けれども、仕入先・下請先と一緒に成長する意識の有無と、業界での存在感の大きさは、多くの業界で概ね一致するようです。仕入先・下請先を脅している会社は、いざという時に仕入先・下請先に助けてもらえない、というエピソードも、実際に具体的に聞かれるところです。

2.内部統制(下の正三角形)の問題
 次に、社長が率いる会社内部の問題を考えましょう。
 2段落目で示された話は、会社の内部統制の問題と相似形です。
 すなわち、会社のコストカットの問題と同様の現象が起こっているのです。
 これは、会社組織を人体に例えてみると理解できます。
 贅肉がついてしまったために動きが鈍くなった会社が、競争力を取り戻すためにコストカットすることがありますが、目的や方法を間違えると、かえって会社の競争力を奪ってしまうからです。つまり、コストカットは単なるダイエットと異なりますので、「美しい」体格になることを目指すものではありません。会社は市場で競争を行っていますから、競争で勝てる体格になることを目指します。すなわち、アスリートとして、それぞれの競技種目に応じた運動能力を高めつつ、ムダな贅肉を落とす必要があるのです。
 ダイエットとして、単純にカロリーだけを落とし、必要な体力を落としてしまうと、一時的に業績が回復しても、その後に同業他社と競争できませんし、必要な免疫力を落としてしまうと、ちょっとしたトラブルにも対応できずに、大きな損失を被ってしまいます。
 このように、会社内部の問題として、コストカットのやり方を間違えてはいけないのですが、会社外部環境の問題として、コストカットのやり方を間違えると、仕入先・下請先との信頼関係が破壊され、自社の競争力や免疫力の問題として跳ね返ってくるのです。

3.おわりに
 余裕がないから過剰なコストカットをするのか、過剰なコストカットによって余裕がなくなるのか、卵と鶏のような関係にあります。
 けれども、仕入先・下請先を大事にすること(共存共栄)も、競争力や免疫力を鍛えることも、市場での競争と競争力の関係から逆算してみれば、アスリートが体を鍛え、良質な食事を摂り、十分な休養を取って体を鍛え上げていくことと同じであり、自分自身への投資である、ということが理解できます。
 切り詰めて、自分の体(仕入先・下請先も含む)を虐めるだけでは駄目です。必要な身体能力を高めるための投資も必要なのです。
 どう思いますか?

※ 『経営の技法』の観点から、一日一言、日めくりカレンダーのように松下幸之助氏の言葉を読み解きながら、『法と経営学』を学びます。
 冒頭の松下幸之助氏の言葉の引用は、①『運命を生かす』から忠実に引用して出典を明示すること、②引用以外の部分が質量共にこの記事の主要な要素であること、③芦原一郎が一切の文責を負うこと、を条件に了解いただきました。

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