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労働判例を読む

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2021年4月の記事一覧

労働判例を読む#248

【アニマルホールド事件】大分地裁R2.2.28判決(労判1231.157) (2021.4.30初掲載) YouTubeで3分解説! https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK  この事案は、動物病院YのトリマーXが、売上金窃盗の疑いで妊娠中に解雇された事案で裁判所は解雇を無効と判断しました。 1.事実認定  Yは、紙で残されている診療費明細書と、パソコンに残っている元

労働判例を読む#63

【イクヌーザ事件】東京高裁平30.10.4判決(労判1190.5) (2019.5.10初掲載) この事案は、定額の残業代を約束していた会社で、その約束自体が無効であると争われた事案です。1審は、約束を有効としましたが、2審は、約束を無効としました。 1.無効である理由 この約束は、具体的には、月80時間の残業を想定し、計算された定額残業代の約束です。 この約束について、裁判所は、厚労省が出した「業務上の疾病として取り扱う脳血管疾患及び虚血性心疾患等の判断基準」の中で、業

労働判例を読む#62

【帝人ファーマ事件】大阪地裁平26.7.18判決(労判1189.166) (2019.4.26初掲載) この事案は、医療機器の営業担当者が、双極性障害I型に罹患し、3回休職し、会社が3回目の復職を拒み、退職となった事案です。 裁判所は、従業員による職場復帰(労働契約上の権利を有する地位にあることの確認)の請求を否定しました(棄却)。 1.裁判所の判断枠組み 裁判所が示した基準は、復職に関する多くの裁判例と同様、従前の業務を遂行できるかどうか、という基準ですが、特に注目され

労働判例を読む#247

【鑑定ソリュート大分ほか事件】大分地裁R2.3.19判決(労判1231.143) (2021.4.23初掲載) YouTubeで3分解説! https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK  この事案は、不動産鑑定事務所を運営する会社Yの取締役として登録されていた不動産鑑定士Xが、契約を解消されたことなどが違法である、ハラスメントを受けた、などと主張し、従業員としての地位確認や

労働判例を読む#61

【ケー・アイ・エスほか事件】東京高裁平28.11.30判決(労判1189.148) (2019.4.25初掲載) この事案は、職場で、総重量200Kg以上のコンテナを傾けて、その内容物を所定の場所に入れる作業を1日に1回程度していた従業員が、腰痛を理由に休職したところ、会社は休職満了までに復職しなかったことを理由に、従業員を退職扱いにしました。 1審判決は、この一連の作業の中には、コンテナを中腰で持ち上げる作業があり、それによって腰を痛めた、という事実認定(概要)を前提に、

労働判例を読む#60

【エターナルキャストほか事件】東京地裁平29.3.13判決(労判1189.129) (2019.4.19初掲載) この事件は、ミスが多い経理担当の従業員に対し、会社が数度にわたって過剰な退職勧奨をし、その結果うつ病となった従業員が、就業規則に基づきH26.8.27~11.26の休職命令後、就業規則の規定により休職期間満了までに復職できなかったことを理由に退職となった事案です。 裁判所は、経理担当を外したことは違法でないとしつつ、度重なる過剰な退職勧奨を違法とし、さらに、業務

労働判例を読む#246

【国・大阪中央労基署長(讀賣テレビ放送)事件】大阪地裁R2.6.24判決(労判1231.123) (2021.4.16初掲載) YouTubeで3分解説! https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK  この事案は、テレビカメラマンとして放送会社Kに入社した後に事務的な業務を担当していた従業員Xが、業務上のストレスによってうつ病に罹患したとして労災申請したところ、労基署Yが

労働判例を読む#59

【ビーピー・カストロールほか事件】大阪地裁平30.3.29判決(労判1189.118) (2019.4.18初掲載) この事案は、従業員がパワハラを受けた、という主張に加え、復職の際の対応が不適切であり、解雇も不当であると主張した事案です。すなわち、上司との折り合いが悪く、うつ病になった従業員は、就業規則により5か月の療養休職期間が与えられるところ、H26.10.21~H27.1.31の療養休職(そのうち1.14~1.31がリハビリ勤務)の後、復職したものの、H27.4.1

労働判例を読む#58

【三洋電機ほか1社事件】大阪地裁平30.5.24判決(労判1189.106) (2019.4.12初掲載) この事案は、1回目の休職(H12.6.21~H15.4.8、交通事故による傷害)、2回目の休職(H17.12.1~H20.1.20、腰椎椎間板ヘルニア等)、3回目の休職(H21.8.6~H24.10.24、進行直腸がん)の後、H24.10.25から復職しました。復職後、2週間程度の勤務の後、再び出社しなくなり、有給消化後の欠勤扱い中のH25.1.21、会社は同1.30

労働判例を読む#245

【国・京都上労基署長(島津エンジニアリング)事件】大阪高裁R2.7.3判決(労判1231.92) (2021.4.9初掲載) YouTubeで3分解説! https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK  この事案は、契約社員Xが勤務先の会社Kの正社員になることを期待して猛勉強したのに、上司や社長からその希望を否定されてうつ病になった事案で、労基署Yが労災に認定しないと判断し、

労働判例を読む#57

【綜企画設計事件】東京地裁平28.9.28判決(労判1189.84) (2019.4.11初掲載) この事案は、うつ病で休職していた従業員の復職に関するトラブルです。すなわち、会社と従業員が、1か月間の休職期間の延長とその間の「試し出勤」に合意し、実際に試し出勤が行われ、計3回、休職期間の延長が行われました。ところが、この3回目の「試し出勤」中に、会社は、解雇・休職期間満了による退職を通知したため、従業員が職場復帰(労働契約上の権利を有する地位にあることの確認)を求めました

労働判例を読む#56

【東京電力パワーグリッド事件】東京地裁平29.11.30判決(労判1189.67) (2019.4.5初掲載) この事案は、持続性気分障害、ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)等を理由に休職していた従業員の復職を不可と判断し、従業員が休職期間満了による退職となった事案です。 裁判所は、会社の判断を支持し、従業員の職場復帰の請求(労働契約上の権利を有する地位にあることの確認の請求)を否定しました。 1.ルール まず注目されるのは、復職の請求が認められるべきルール

労働判例を読む#244

【学校法人奈良学園事件】奈良地裁R2.7.21判決(労判1231.56) (2021.4.2初掲載) YouTubeで3分解説! https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK  この事案は、大学Yの経営難や学部再編に伴い解雇・雇止めされた教員Xら7名が、解雇・雇止めを無効と主張した事案です。裁判所は、定年前の教員4名(X1~X4)と、定年後有期契約を締結していた教員3名のう

労働判例を読む#55

【NHK(名古屋放送局)事件】名古屋高裁平29.3.28判決(労判1189.51) (2019.4.4初掲載) この事案は、傷病休職者が復職を認められず、休職期間満了により解職された事案で、裁判所は解職を有効としましたが、休職期間中の「テスト出局」期間中の作業について、最低賃金相当の賃金の支払いを命じました。 1.はじめに 結論から言えば、この裁判例は、復職を希望する休職者への対応について、バランスの取れた結論を重視したように思われます。その分、理論的に詰めるべき問題が残