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映画「るろうに剣心」は、何が成功で何が失敗なのか

新型コロナウイルスに関する緊急事態宣言もひとまず解除され、各地の映画館も順次営業を再開し始めました。そんな現在の映画業界で一番話題になったニュースと言えば、「るろうに剣心 完結編2部作」の公開延期ではないでしょうか。

「るろうに剣心」といえば、週刊少年ジャンプで約5年連載され、現在も系列誌で続編が連載中の人気時代劇バトル漫画ですが、2012年に東京編を題材とした実写映画「るろうに剣心」が、2014年には原作で最も人気を誇る京都編を題材とした「るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編」が前後編二部作で公開され、いずれも大ヒットを収めました。

来年のGWまでの延期が決まった「るろうに剣心 完結編」。多くの人々から残念がる声が挙がりましたが、これもひとえにシリーズの過去作が高い評価を得ているからに他なりません。では、「るろうに剣心」は何が成功だったのか、失敗していた部分はないのか、個人的な見解ではありますが、色々と分析していきたいと思います。

るろ剣

女性キャストに不安はあるが…

まず、マンガ・アニメの実写化作品で最も観客が気にする点と言えば、それぞれのキャラクターに合った配役がされているかという所ではないでしょうか?

結論から言えば、一部の女性キャストに多少の不安はあるものの概ね問題なくハマっている、キャスティングに成功した珍しい作品だと思います。

特に緋村剣心役の佐藤健さん、志々雄真実役の藤原竜也さん、瀬田宗次郎役の神木隆之介さんの評判の良さは、この記事を読んでいる方ならもはや深い解説は無くともご存知でしょう。剣心の穏やかさと儚さの二面性、志々雄の尋常ではない野心と癖しかない美学、宗次郎の美青年っぷりと底知れぬ闇、どれもかなりのはまり役だと思います。個人的には佐渡島方治役の滝藤賢一さんも、志々雄への忠誠心を発狂気味で示し続けるという怪演を、見事にやりきっていたと思います。出番があまり多くないのが残念ですね。

宝治

一方、女性キャストに関しては「見た目やイメージの剥離」を「演技力やアクションでカバー」しているケースがやや多めです。

神谷薫役の武井咲さん、見た目のイメージはあまりはまっていませんでしたが、芯の強さがある薫役は彼女が得意とするキャラの一つでもあるのでそこまで違和感はありませんでした。高荷恵役の蒼井優さんも同じく見た目はそこまで恵寄りという訳ではありませんが、どんな役でも不思議な魅力と色気を醸し出して演じぬく蒼井さんの演技を持ってすればそこまで気になるほどではなかったです。

一番問題があると思ったのは駒形由美役の高橋メアリージュンさん。どう見ても由美というキャラの美しさとメアリージュンさんの美しさは系統が違う物のように感じてしまいます。彼女自身の演技は悪くなかっただけに残念です。

とはいえ、目に余るほどひどいキャスティングは無く、ここで特筆していない役者さんに関しても大きな違和感は感じなかったので、キャスティングに関しては概ね問題なしと言えるでしょう。ましゃ以外は。

時代劇アクションの頂点へ

原作マンガの「るろうに剣心」は、死の臭いが漂うストーリーも魅力の一つではありますが基本的にはバトル漫画です。しかも主人公は「かつて新時代のために戦った歴戦の暗殺剣士」という設定を持っているため、その強さをいかに実写世界で表現するかというのがこの映画最大の挑戦だと思います。

その点では、ほぼ完璧に成功しているというのがこのシリーズ最大の魅力でしょう。実際の役者さんたちが極力スタントを使わず、生身でアクションシーンを演じているというのも好感が持てますが、そのバリエーション、完成度、誤魔化しの無さに関しても、天下一品だと感じます。

特に、第1作目の序盤の剣心の素手ファイト、2作目の土屋太鳳さん演じる巻町操の開脚キックを含んだ戦闘、田中泯さん演じる翁と伊勢谷友介さん演じる四乃森蒼紫の対決はまさに「必見」です。土屋さんに関しては、演技自体はまだ他の女性キャストに及んでいないというところもありますが、このアクションで全て許せてしまいそうな、それくらいの迫力がありました。田中さんに関しては最早気迫で言葉が出ませんでした。

アクション

ちなみに1作目で登場しネタ扱いされている斎藤一の「牙突」ですが、3作目で改善されて登場しているので一応セーフです。それを見せびらかすために魚沼宇水を一撃死させたのはいただけませんが(笑)

このように、「るろうに剣心」の実写化成功には大友監督とキャストの皆さんがが真摯に取り組んだアクションシーンの圧倒的な完成度が、一番大きく貢献していると言えます。大友監督はその後2016年に、小栗旬さんを主演に「ミュージアム」を製作しますが、そこでも迫力のあるアクションシーンが光り、るろ剣ほどではありませんが話題を呼んだ実力作となりました。グロテスクな描写も少しありますが、こちらも面白いので是非ご覧になって頂ければと思います。


欠点はストーリーのオリジナル要素か?

「るろうに剣心」シリーズに強いて苦言を呈すならば、映画の尺に収めるためにとったストーリーの継ぎ接ぎ、映画スタッフが制作したオリジナル要素の出来がそこまで良くないという点が挙げられます。もっと踏み込んで言うと、最初の東京編の映画だけなら大きな粗も無かったと思います。第1話と薫の誘拐騒動、恵と過去の因縁を織り交ぜたストーリーは本当に素晴らしいです。しかし、次の京都編では色々な粗が出てしまっています。

まず、これはよく指摘されている部分ですが、原作の人気キャラである四乃森蒼紫の扱いについてです。東京編ではストーリーの簡略化のため登場せず、武田観柳と組むのは原作で絡みの無い鵜堂刃衛に変わっています。この改変、東京編単独で見れば成功だと思いますが、結果次の京都編でいきなり蒼紫が登場するという事態が起きてしまい、剣心と蒼紫の関係性がかなり希薄なものになることで「四乃森蒼紫=抜刀斎(剣心)のストーカー」という間違った方程式が流布する羽目に(笑) 更に関係性が希薄になった志々雄には「誰だお前は!」とか言われちゃうし(笑)

これらに加えて、原作では蒼紫に敗北するものの生き残る翁が映画では戦闘が原因で亡くなるという謎展開も起こり、そのせいでこのシリーズ屈指のネタキャラになってしまった蒼紫。どうしてこうなってしまったんでしょうか。何かこれだったら蒼紫を出す意味が無いような気がします。

また、原作同様志々雄の配下にいる戦闘軍団「十本刀」も、先述した瀬田宗次郎を筆頭に登場しますが、目立っているのは宗次郎と「京都大火編」で剣心と対決する沢下条張くらいで、あとはほぼモブキャラになっているのも非常にガッカリしました。斎藤に一瞬で倒された宇水もアレですし、不二とか才槌に至っては存在感ゼロでしたよ。

ただしある意味で一番酷いのは、「一番の魅力である壮絶な過去を全カットされ、志々雄配下の一部キャラの背景を語るだけ語って原作より脳筋気味の相楽左之助に金的を食らう男」こと、悠久山安慈でしょう。フタエノキワミも出ないし、どうしてこうなってしまったんでしょうか。何かこれだったら安慈含め十本刀を出す意味が無いような気がします。

あんじ

あと個人的に大きく不満だったのは「京都大火編」のラストで薫が志々雄一派に攫われてしまうオリジナル展開ですね。薫を巻き添えにしないために剣心は別れを告げて一人で京都に向かったのに、結局ついてきて攫われてしまうのは最大の本末転倒ではないでしょうか。原作の薫は京都についてきても攫われず自分で戦いきるのですが… 続編へのクリフハンガーが欲しかったんですかね?でも「伝説の最期編」で薫はサラっと助かって仲間の元に戻るのでやっぱりこの展開に必要性を感じません。

その他、剣心のニセ処刑、薫が不殺を周りに強要するところ、やたらとコメディチックな左之助VS安慈などもちょっと「ん?」って感じでした。

良いと思ったオリジナル展開は「伝説の最期編」ラスト、船上での最終決戦は原作よりも緊迫感があってよかったと思います。藤原竜也さんの気迫の演技もここでより一層光りましたし、剣心・斎藤・左之助・蒼紫が泥臭く、それでも圧倒的な差がある志々雄相手に少しずつ攻撃を加えていくシーンはとても楽しめました。見方によってはリンチっぽく見えますが、それぐらいしないと勝てない相手と言うのが演出されていたように思えます。

あと本筋には関係ありませんが、「京都大火編」でニセの志々雄が沢山出てきたシーンは不覚にも笑ってしまいました。石原さとみ主演の「貞子3D」の予告で「家電量販店のテレビ売り場の商品全部から貞子が出てくるシーン」があり、それを彷彿とさせるシュールさが堪らなかったです。


映画「るろうに剣心」はアクションを楽しむもの

しかし、ここまで言ってきて態度を翻すのはあれですが、アクション映画にストーリーの精密さというものはそこまで問われないものかもしれません。自分が一番好きなアクション映画である「ミッションインポッシブル」シリーズも、ストーリーにそれほど深みはなくトム・クルーズのカッコ良さに全振りしたアクションのオンパレードを楽しむ作品だと、自分の中で位置づけています。


そして、「るろうに剣心」は日本映画では珍しく、それとほぼ同等の価値がアクションシーンにある作品です。アクロバットな動きや戦闘シーンを見て、うわぁ佐藤健かっけぇ、健に私も守られたい、そういえばバクマンも似たようなメンツだったな~など、各々の想いを巡らせればそれでオールオッケー、そういう意味で「大成功」の実写化映画だと思います。

そして映画から「るろうに剣心」に入った方、是非原作マンガも見ていただきたいです。特に原作の京都編のストーリーは本当に情緒が馬鹿になるほど心を揺さぶられます。時に手に汗握る死闘、時に哀しき敵役の過去と、誇張じゃなく全部が見所です。映画ではあまり見られなかった師匠・比古清十郎の活躍も見られます。繰り返しになりますが、是非原作の「るろうに剣心」も見て下さい!!

長文となってしまいましたが、最後まで見て頂きありがとうございます。

トモロー

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