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45歳・教員の「越境学習」 ~日本財団での1年間~(19)

カンボジアの教育事情(4)

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 滞在中に5つの小中学校を訪問するなかで、カンボジアやモンドルキリ州の教育事情について、次のようなことがわかった。

・日本の学習指導要領に相当するような全国共通のカリキュラムは存在しない。各学校では、国語(クメール語)、社会、算数、理科の4科目を中心に授業が行われている。学校によっては、社会科のなかで道徳、家庭科、音楽、美術などに関する内容が扱われることもある。また、体育の授業が行われている場合もある。

・モンドルキリ州の学校では教材や教具が不足しているため、授業中に実験や実習は行われない。また、グループで活動することなどは取り入れられておらず、教師が教科書の内容を一方的に説明するスタイルで授業が進められている。

・小学校では学級担任制をとっており、担任が全教科を教える。一方、中学校は教科担任制で、教師は授業がある時間帯だけ出勤をする。教師の勤務時間は小学校のほうが長いが、給料は中学校のほうが高い。そのため、小学校の教師のなかには中学校への異動を目指している者が多い。

・教師の給与水準が低いため、副業をすることが常態化している。中堅やベテランの教師のなかには、授業を若手に任せて副業に従事をしている者が多い。

・山間地の学校では、都市部に比べると女性教師が少ない。水道・電気・ガスなどのインフラが未整備なことやマラリアの蔓延など、生活環境の厳しさがその一因だと思われる。

 国家としての教育政策が不明瞭で、必要な予算措置が講じられていないことを考えると、劇的な変化を期待することは難しいだろう。
 それでも、私が出会った教師たちは、
「教師という仕事に、やりがいを感じている」
「故郷にいる両親は、私が教師になったことを誇りに思っている」
 と、口々にこの仕事に対する思いを語っていた。

 ・・・モンドルキリ州を訪れてから、もう15年が経った。
 あのとき出会った若い教師たちは、今、どうしているだろうか。
 すでに40歳前後になっているはずだが、今でも初心を忘れることなく、カンボジアのどこかで教壇に立っているのだろうか。
 それとも、当時のベテラン教師たちがそうだったように、授業は若手に任せて副業に精を出しているのだろうか。
 よそ者である私の勝手な思いなのかもしれないが、できれば前者であることを願いたい。(つづく)


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