【名探偵141ちゃん①】

『はい....私が彼女を殺しました....』

犯人はそう言うと床に崩れ落ちた.............
少年は犯人に近付きメガネを、右手の中指でクイっと押し上げると
「どんな難事件だって解決!真実は、いつもひとつ!爺っちゃんの名にかけて…」

テレビから聞こえる、人気アニメ【小難少年の事件簿】定番の決め台詞を、インドカレー屋で観ていた141は、手にしていたナンをちぎって頬張りながら呟いた。
「やっぱ…こういう決め台詞があった方が格好良いよな……俺も何かしら考えよ」

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数日前…ある春の日

舞い上がる風に、街路樹の桜の花も全て散り
新緑の葉の隙間から朝日が射し込む、陽気な五月晴れ…
朝の散歩を終えた男は、胸のポケットにしまってあった一枚の写真を取り出した。

そこには屈託の無い笑顔で、その男と腕を組む一人の若い女性が写っていた
『愛美......』
男は写真を見つめながら、そう呟いた。

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カレー屋を出た141は、先に支払いを済ませ外でタバコを吸う男の元へ駆け寄った。
『警部ったらぁ…待って下さいよーっ!!』

お待たせしました…皆さん、御察しの事だろう
この男、数々の難事件を解決してきた
頭脳明晰…容姿端麗…かどうかは知らないが
自称、名探偵の【141ちゃん】である。

タバコを吸い終え、クシャクシャの髪を春風になびかせ…競馬新聞を片手に自動販売機で飲み物を買いながら
『ところで、141ちゃん…GWはどうするの?どっか行くの?』
と聞く、この男…道端寛之
歳の頃は50中頃だろうか、大阪府警本部の道端警部である。

いつも、141を影で支える、彼の良き理解者である。
道端に奢ってもらった缶コーヒーを開けながら
『これ、前に言ってた…部長のご家族がやられてる自動販売機のやつですか?』
と…141は、さり気なく話題をすり替える。
あまり興味の無い事や、都合の悪い時は決まってこんな態度だったりする。

そんな、彼の性格を知ってか知らずか
『あぁ…弟がな…それより、どう?旅行でも行かない?』
と全く介せずに誘う道端。

そんな回答に面食らったのか、食い気味に
『りょ、旅行ですか....?私達が旅行なんか行ったら間違いなく事件が起こりますよ』
141は、困惑を隠せない様子だった。

しかし、そんな事は知らぬとばかりに
『それもそうだけどGWで、どうせ皆んな退屈にしてるだろ?丁度、よくない?』

取り方によっては、事件が起きた方が良さそうな言い回しにも聞こえなくはない。
『そんな安易な理由で、また、人が死んでしまうんですよ?ほら…今までだって....』

141と道端の現れる処には、決まって事件が起きる…まぁ、物語や小説とはそういうものだ。
そうでないと始まらないのだ…

『まぁ良いじゃないか、141ちゃん…また連絡するよ』
そう言って、141の心配を他所に心地よい春風の中、颯爽と道端は署に戻って行った。

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数日後....

141と道端警部は京都に来ていた。
『今回は、意外と近場でしたね…次回は、せっかくなので東北とか沖縄とか遠くに行きたいですね?』
大阪から電車で河原町駅へ向かい、そこから少し歩き、外国人観光者で賑わう大通りを進むと八坂神社が見える。
一旦足を止めて、141はスマホで朱色の大きな門戸を撮影していた。
『八坂さん、久しぶりやなぁ』

同じく道端も
『作者も毎回、設定に困るんだろうな』
と、辺りを眺めつつ京都の街を楽しんでいる様にも見えた。

しばらく道なりに歩くと左手に細い坂道が見えてくる。
そこを登り抜けると現れるのが清水坂と言い、この坂は清水寺に通じる参道で、道の両脇には土産屋が軒を連ねている

『ちょっと、お土産でも見て行きましょうよ』
京都の街を散策するのなんて何年振りだろうか…
141は嬉しくなって、そそくさと1人で店に入りお土産を物色し始めた。

道端も遅れて店に入り
『確か…京都は七味唐辛子が....』
と、道端が有名な唐辛子の瓶に手を伸ばした時…白髪の紳士と手が重なった。

『あっ!!すいません』
咄嗟に謝る道端…性格だろうか?
温和な性格であまり攻撃的な部分は持ち合わせていない。しかし、正義感は強く事件となるとまた違う一面を覗かせる。

『いえ、こちらこそ』
男は、ペこりとお辞儀をし道端の顔を見ると、聞かれてもないのにおもむろに喋り出した。

『私は、京都に本社をおく、総合商社の社長をしております、正垣と申します』

正垣祐樹、65歳
京都に3代続く商社の社長、気品さを感じる白髪の紳士であった。
唐辛子の瓶を手に取り、ラベルをこちらに向け
『こちらも弊社で取り扱っております商品にございます…是非お買い求め下さいませ』
と、彼は和かな笑顔をみせた。

『は、はぁ....』
いきなり見ず知らずの人間に話しかけられる急展開に慣れてないのか、道端は未だ困惑していた。

男は続けた…
『最近、息子の縁談が決まりまして…早く結婚して孫の顔を見るのが楽しみなんです』

黙って聞き耳を立てる、141
『..................』

一体、今の会話に何の関係があるのか疑問だったが、道端はそのまま様子を伺う事にした。

更に続ける正垣、今度はとうとう道端の手を握りだし
『そうだ!よかったら、我が家にいらして下さい』

と、あまりにも急過ぎる展開に
『なんだ?あの人....いきなり自己紹介なんか始めて....更には自宅に招くなんて』
と、つい141に助け船を求めた。

一部始終を見ていた141は、なにか勘付いてしまったのか、道端に近付くと
『あの人、死ぬな…今回の被害者ですね』
そう道端の耳元で、ホラ見ろと言わんばかりの無表情を浮かべ囁いた。

『えっ!なんで?』

『ほら?いきなり不自然でしょ?文字数とストーリー的に仕方ないとしても、孫の話なんかもう死亡フラグが立ちまくりやないですか?』

『死亡フラグ?』
聞き慣れない言葉に、道端は首を傾げた

『そう、死亡フラグ....作中で起こる死ぬ事への伏線ですよ?ほら、ピコンと旗が立つイメージです。例えば、こんな感じ』
141の説明は、明らかに聴こえてる筈なのに、ニコニコして聞いている正垣の存在を気にする道端

『あ、大丈夫です。小説は都合がいいですから』
そう言って、指を折りながら141は道端に説明を続ける。

・ヤクザが女や家族の為に、足を洗う
・生きて帰れたら結婚しよう等と約束する
・寡黙な人が、急に秘密の昔話を始める
・『ここは俺に任せて先に行けっ』と言う
・『殺人犯と一緒にいれるか』と一人出て行く
などなど....

『なるほど....』

そんな話をしていると、これまた小説とは便利なもので…場面は変わり、何故だか既に正垣の屋敷に来ていた。

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『素敵なお屋敷ですね』
京都ならではの…眼を見張る純和風な作りに、141は溜息を漏らした。

そんな事は言われ慣れているのだろう
『ありがとう....今、お茶の用意をさせるから少しお待ち下さい』
正垣はそう言って、応接室を後にした。

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