Apple Watchの打倒のしかた(上)

思考実験シリーズの第2回。架空の団体「140 Computer」が、Apple Watchを打倒するまでの感動のストーリーを描きます。いえ、たぶん感動はしないと思いますけれども。

まずは、Apple Watchの打倒の仕方がどのようなものになるか、現在市場に出ている競合製品を見てみましょう。

A社:
Apple Watch打倒の最有力候補。アウトドア製品風の製品シリーズを市場投入。さすがに腕時計メーカーだけあって、動作中に文字盤の表示が消えるようなことはないようです。その一方で、バッテリー寿命についてはGPSによる位置計測機能の精度や頻度によって大きく変わるようで、最短で6時間、GPSを使用せずモノクロ画面表示を行えば1か月以上持つとのこと。Apple Watchのスペックをとてもよく研究した製品です。

B社:
スマートウォッチ製品に電子マネー(Felica)機能+Bluetoothがついたもので、価格も手頃であり堅牢性に疑問がつく(保証期間が過ぎると壊れるお家芸の時限破壊技術)ほかは、とくに欠点らしい欠点が見当たりません。

C社:
ソーラーバッテリー駆動。「Bluetooth 通信機能つきソーラーウォッチ」

D社:
エコ・ドライブ Bluetooth。

具体的な社名とか製品名を出すと問題がありそうなので、あえて伏せていますが……あらためて調べてみると、各メーカーの担当者が偉い人からハッパをかけられて、文字通り血のにじむような努力と研究を重ねて製品企画と製造を行なっていることが見てとれます。まず、そこには敬意を表させていただきます。

ただ、対抗する方法についてはいささか疑問があります。

全体的に、B社以外は、スマートウォッチのうち、「スマート」(スマホ等との連携部分)よりも「ウォッチ」(腕時計としてのハードウェア)にこだわっているように見えます。

これらはすべて、Apple Watchに「時計専業メーカーの立場」から対抗した製品です。

製品単体としての完成度はケチのつけようがないところですが、Apple Watchの幻影に引きずられすぎて、こじんまりとした世界観の狭さを感じてしまうところです。

これらの製品は、ソフトウェア製品ではなく、あくまでハードウェア主体の製品企画が見て取れます。製品写真から受ける印象も「堅い」「堅実」「壊れなさそう」というものでした。

ここで、Amazon.co.jpで「Bluetooth watch」と入力して製品検索してみましょう。

中国メーカーによる玉石混交のさまざまなBluetooth搭載腕時計が表示されます。正直、日本メーカーの完成度の高い製品よりも、こちらの方がスマートウォッチが「何か」ということを理解しているように感じられます。「スマートウォッチ」という新しい経験がもたらす「ワクワク感」を演出できていると思います。

「腕時計」という重みのある印象ではなく、オモチャっぽい印象や、使い方が定まっていないイメージ、そして全体的にカラーリングが明るいものです。使うことによってもたらされる「使用体験」が主なものであって、ハードウェアそのものに価値はないよ、と語りかけてきます。

5年間は壊れずに動くようにしよう、●●気圧防水でなければ! といった「ものづくりの強迫観念」とは真逆の価値感で作られています。腕時計メーカーの製品がもたらすのは「所有する喜び」であるのに対して、スマートウォッチがもたらすのは「使用する喜び」といえばよいのでしょうか。

冒頭で分析した時計メーカーの製品群は、壊れないように、叱られないように、ケチをつけられないように、という萎縮した商品企画がもたらした、何もワクワク感のない「スマートウォッチ風」腕時計です。

少なくとも、「何かの目的を実現する手段がたまたま腕時計だった」Apple Watchとくらべると、「腕時計を作ること自体が目的化」しています。

Apple Watchを打倒するためには、Apple Watchよりも大きなテーマや目的を実現するような気配を漂わせる必要があるのです。そのためには、Apple Watchが実際には「何なのか」をよく知らなくてはなりません。

ここに、Apple Watchが出てくる前に筆者が情報分析して、それがだいたいどういう形をしているか、どのような弱点を抱えているかをまとめた資料「Let's Talk About 時計」があります。作成日は2013年8月9日となっています。Apple Watchの登場の1年以上前です。

→ Slide Share上の筆者の資料「Let's Talk About 時計」

  ・Apple Watchは常時画面表示を行うことができない
  ・モーションセンサーによって画面をつけることになる(うまく機能するとはかぎらない)
  ・薄型ではなくある程度の厚みがある
  ・バッテリー寿命については苦労する
  ・カラー液晶画面搭載

というところでしょうか。実際には、液晶ではなく有機EL搭載でしたが、カラー表示でそれなりにバッテリーを消費するデバイス、という意味で書いておきました。

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