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エクスプレス・ガンプ/一歩一歩

はじめましてスワンプマンと申します。

さて、今回久々に筆を執ったのは、あることを思い出したからです。


「ちょうど一年前に 池袋行った夜

昨日の事のように 今はっきりと想い出す」


2019年5月25日(土)の池袋で模様されたイベントがありました。

『銀河アリス 1st Anniversary ~L.I.N.K.~』

私が推しに推してるバーチャルYoutuberの一周年記念ライブでした。

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しかし、今回の本題はこのライブではありません。

このライブの後、帰り道での話です。





急いては事を仕損じる

2019年は私にとって「動」の年でした。

私は基本的に出不精なのでイベント事も行きたいとは思いつつもなかなか重い腰を上げることができませんでした。

しかし、2018年に前述のバーチャルYoutuber(通称Vtuber)にドハマりした私はイベントに顔を出すようになり、当然最推しの一周年記念イベントともなれば行かない選択肢はあり得ませんでした。

そうして迎えた5月25日。熱く激しく感動のフィナーレを迎えたライブ。

私に同伴してくれる友人など存在せず、余韻に浸りながら一人すごすごと帰路に就くのでした。

しかし、ここで一つ目の誤算。

当時の私は茨城県はつくば市に住んでいたので、TXことつくばエクスプレスのみどりの駅から乗り継いで池袋まで来ていたのです。(まあ、現在もほとんど変わらない位置に住んでいるのでルートに変化はないのだが)

しかし、TXの秋葉原駅発はなんとみどりの駅まで行かない場合があるのだ!

そして、困ったことに終電近くの遅い電車はまず行かない。途中にある守谷駅が終点となるのである。なぜかは知らないが、そうなるのである。

ライブ終わりが夜の10時はとうに過ぎていた。時刻表は覚えてないし調べるのも面倒なので適当に書くが、おそらく0時前にはみどりのまで行く電車はなくなる。

最初の算段ではまあ間に合うだろうとたかをくくっていたのだが、数分の遅れ。まさしくタッチの差で出発進行してしまったのである。

しかし、その程度では私は焦らない。

なぜならこのほんの少し前に行われた別のライブイベントにおいても私はこの実質終電を乗り逃していたのだから。

なので慌てない。むしろ乗れなくても大丈夫という慢心が歩みを緩め、間に合わなかった原因であろうことは想像に難くないが、すべては無意味なifである。間に合わなかったものはしょうがない。次の手を考えよう。

では前回乗り遅れたときはどうしたのか。

そう、終点となる守谷駅で降車し、近くのカラオケ店で始発の時間まで待っていたのである。

では今回もそうしたのか?

そうしようかと思っていた。思ってはいたが、そうはならなかった。

ここで二つ目の誤算である。



思い立ったが吉日

私は、おそらくだが。

ライブの余韻でテンションが上がっていたのだと思う。

だから、歩いて帰ろうなどと血迷ったことを思ってしまったのだ。

その時の私の思考はこうである。

・カラオケは前回行ったし、深夜料金は高いからあまり行きたくないなぁ。

・ここから家まであと2駅か。

・多分始発を待つより歩いて帰った方が若干早く帰れるんじゃないのか?

まず1つ目。カラオケは高い。

カラオケに足しげく通っていた学生時分はフリータイム9時間歌って1000円でお釣りがくるのだ。その思考を引きずっている私からすれば、1時間で1000円以上を余裕でとられる深夜料金のカラオケは月に何度も行くようなものではないのです。そうです貧乏性です。

続いて2つ目。そう、あと2駅なのである。

最近巷ではダイエットのために出社退社時に駅を1つ2つ歩いて行くというのが流行っているらしいじゃないか。もちろんそれは山手線とか通常の電車の話で、TXにそれをあてがうのはナンセンスであるということは重々承知であった。しかし、ネタとして面白いんでないかい?という悪魔のささやきがあったことは、言い逃れのできない事実である。

ちなみにTXの駅と駅の間はどの程度なんだい?というと、徒歩で行けば平気で片道1時間はかかる距離である。そう、2駅ということは単純計算2時間はかかるということ。深夜に2時間歩いて帰ろうとする愚か者がいたのである。誰だ?私だ。

そして3つ目。池袋から守谷駅まで約1時間ほどだろうか。なので到着したときは深夜1時近くだったと思う。

始発は確か5時ごろだよな?

2駅歩いて2時間超。余裕をもっても3時間ほどか。

つまり、うまくすれば4時ごろにはみどりの駅まで着ける?

じゃあ始発に乗るより早く帰れるじゃん!

そう、短絡的にもほどがある思考だが、深夜テンションと興奮冷めやらぬライブの余波による思考破壊活動の成果、私の灰色の脳細胞はそう結論付けた。

時は金なり。そうと決めたらうだうだする時間はない。なぜなら疲れてるし早く帰ってライブの振り返りやグッズの確認をしたいのだから!



備えあれば憂いなし

ということで結論は出た。

私は歩く。

そう決めた。

まず私の短絡的な思考としては、線路沿いに行けばまず間違いないだろうということ。念の為にスマホで地図を見て、大まかな方向と基本は線路沿いに行けば良さそうだなと確認する。

スマホの充電があまり残っていなかったのでさっと確認してしまう。

しかし、帰り道ただ歩いて帰るだけでは心細いので音楽をかける。

聞くのはつい数時間前にライブで見ていた銀河アリスさんの配信曲。

勇気を胸に、希望を足に、情熱を膝に。いざ、私は歩き出した。


駅を出るとすぐコンビニが見えた。飲み物でも買っていくか?

しかし、カバンの中にはまだほとんど口をつけていないペットボトル飲料が1本あった。大丈夫だろう。足りなくなったら途中でコンビになり自販機なりあるだろうからそこで買い足せばいいや。

そう思ったことを、ほどなくして後悔することとなる。

歩き始めてすぐ、私は思っていた以上に夜の世界が暗く静かであること思い知らされていた。

まず、民家がない。線路沿いを歩いているのだが、駅からちょっと離れただけでもう人の気配がない。周りにあるのは森、畑、公園、道。

街灯はぽつぽつとしかなく、非常に暗い。以前勤めていた会社で千葉からやってきた人がいたのだが、その人に言われて初めて気付いたことがあった。

茨城は夜道が暗いですね。

確かに言われて初めて意識したが、道には街灯がぽつぽつとしかなく、あまり遅くまで空いているお店などもないのでとても暗いのだ。

それが当たり前だと思っていたが、他県から来た人にとってはそうではなかったらしい。

なるほど、夜中の道を歩いていて改めてその話を思い出した。

本当に暗い。遠くを見ても明かりは見えない。ここが線路沿いの道だから点々とでも街灯があるのであって。少し外れればそこは真っ暗闇である。

しかし、意外と人は通る。

周囲に家らしきものはないのだが、何人かのジョギングをしている人やこんな夜中になぜと思うが自転車に乗った学生らしき人が数分に一人くらいの割合ですれ違ったり追い抜いて行ったりするのだ。

こんな時間でも思いのほか出歩いている人はいるものなんだなぁと驚いたものだ。たまに車も通るが、それ以外の人の方が多かったかもしれない。

そうこうしているうちに30分は過ぎていただろうか。

歩き出す前の私は想像もしていなかったのだが、駅からここまでコンビニも自販機も一切見かけないのであった。

正直今のご時世少し歩けばコンビニないし自販機くらいはあるものと思っていたのだが、そんなことはなかった。

そもそもライブ後で疲弊していたのもあり、思っていたよりものどが渇く。すぐにでも買えるものと思っていたので割とハイペースに飲んでしまい、ほどなくして飲料水の残機は0となった。

コンビニはないか。自販機でもいい。のどが渇いた。

出発して1時間は過ぎただろうか。いまだ飲み物を入手する算段は立たずにいた。足も疲れているが、何よりものどが渇いてしょうがなかった。

1時間半は確実に過ぎていたと思う。とてもとても長い時間だった。

人もほとんど通らなくなり、孤独に闇の中を突き進む時間が私の感覚を狂わせる。

今思えばたったの1時間半だが、まるで半日彷徨い歩き続けたかのような苦しみが私の体にのしかかっていた。

そんな時、遠くに明かりが見えた。はじめは遠くにある街灯かと思ったが、すぐにそれがマンションの光であることが分かった。

久々に見た、人の存在を知らせる光である。文明の明かりだ

大げさではなく、漫画やアニメによくある山の中を一晩中歩き続けようやく民家の明かりを見つけた時のキャラクターの心情が身に染みて理解できた。

あとどれくらいかはわからないが、そう遠くない距離に人がいる。つまり、コンビニや自販機がある。そう思うとくじけそうな膝に気合が入る。

そこからもう20~30分ほどだろうか。ついに街にたどり着いたのである。

線路は地下に潜っていったため脇を歩いて行くことはできなくなったが、とにかく街に入れば飲み物にありつける。

それはすぐに見つかった。

街に入ってすぐ、小さく四角い光を放つ箱を見つけた。

自動販売機だ!!

反対車線だったが車は一切通っていない。しかし、信号があったのでとりあえず青になるのを待ち反対車線へと移る。

感動だ。まるで誘蛾灯に引き寄せられる虫のごとく、数年ぶりに出会った友のような感慨を抱きつつ自販機へと近づく。

お金を入れ、一本のスポーツ飲料を購入する。

一口でペットボトルの中身は体内へと流れ込み、死に体と化した我が身を瑞々しく蘇らせる。

ああ、コンビニや自販機はスーパーとかに比べると割高だなぁ、とか今までは思っていたが、そんな考えはもうベルリンの壁にごとく崩壊していた。

たとえこの自販機が1本500円で売っていたとしても私は文句1つ言わずに一瞬の躊躇いもなく購入していたことだろう。

生きるために金はある。金を惜しんで死ぬのはバカバカしすぎる。

買いたいという私と高いという私の中にもう壁はない。高くとも、買えるという自由が私にはあるのだ。

そうして元気を取り戻した私は、命の恩人たる自販機に名残惜しさを感じつつも、先を急ぐことにした。



急がば回れ

さて、ようやく2時間近くをかけて1駅分歩き切ったわけだ。つまり、すでに予定の倍の時間がかかっているということ。急がねば。

とりあえず街まで来たのでどこかで時間をつぶして再び始発を待つ。という選択肢もあったのだが、ここまで歩いてきたのだからせっかくなら最後まで行こうと決めた。

自販機を離れて少し歩くと、コンビニを発見した。

正直ライブ後パンを少々齧ったのみでお腹ペコペコだった私はコンビニにより、おにぎりなどを購入し一息つきながら空腹を満たす。

線路は地下に潜ってしまったのでスマホの地図で方角を確認し街を出る。

街を出て少し歩くと、たちまち暗闇の世界へと引き戻されてしまった。

そして、ここまで線路を頼りにひたすら歩いてきた私に最大の難関が待ち受けていた。

線路の脇に道。GPSが指し示す私が辿るべき道は、今までとは比較にならないほどの真なる暗闇が続いていたのである。

街灯は一切確認できず、木々に囲まれた真っ暗闇。これは、深夜に一人歩いていい道ではなかった。

生物の根幹に眠る根元的な深淵への恐怖。暗闇という本能的な畏怖を避ける選択をした私は、どうにか線路から離れすぎないように近くの比較的明かりがある道を行く。

あと1駅。ここまで来たら、大したことはないだろう。サクサク進んで、早く帰ろう。

そうは問屋が卸さなかった。

しばらく歩くと、完全に線路から離れてしまった。

気付くと私は、どことも知れない田舎道を歩いていた。

一応GPSを確認し、そこまで大きく外れていないことを確認する。

しかし、どうにもGPSが指し示す道と今私が歩いている道がかみ合っているのかいまいち自信がない。

しかも、スマホの充電がそろそろ限界である。

今まさに迷子にならんというところでそれは絶望的だ。

とにかく方向だけでも頭に叩き込み、歩き続ける。

今更だが、私はそこそこ方向音痴だ。

どのくらいかというと近道しようと知らない道に入ると無駄に一周してほぼ同じところに戻ってきたり、勝手知ったる通勤路で迷子になることがある程度には方向音痴である。

そうして私は予定調和のごとく道に迷った。

GPSの指し示していた方に歩いていたつもりが、謎の工場地帯に入ってしまい永遠と続くフェンスに阻まれ行きたい方向に進めない。そのタイミングでスマホはこと切れてしまう。

しばらくフェンス沿いに歩くと道がなくなってしまう。かといって引き返す元気はもうない。ならば答えは一つ。行けるとこまで行ってやれだ。

工場を横目に道なき道を歩き続ける。空は日が昇り始め、数分前までは見えなかった彼方の景色が視認できるようになってくる。

ここはどこだ?

気が付くと、工事現場のような場所に入り込んでしまっていた。しかも遠くで機械の起動し始める音や人の声が聞こえてくる。

これはいかん。こんなところにいるのが見つかったら怒られてしまうかもしれん。事情を話せば分かって貰えるとは思うが、バレないに越したことはない。

さっさとこの工事現場からだけでも抜け出そうと思い回りに目をやるが、どこから出ればいいのかわからない。

とにかく歩く。

雑草が纏う朝露により足が濡れる。

5月とはいえ、朝はまだまだ肌寒い。

歩き続け汗の染みたシャツに朝露に濡れたズボンが、容赦なく私から体温と体力を奪う。

早く。早くここから出なくては。

ようやく、少し先にガードレールが見える。

つまり、あの向こうには普通の道があるはずだ。

少し距離があるがまっすぐに足を進める。近づいて行く。

いざガードレールを前にして、さらなる壁が立ちはだかる。

文字通り、ガードレールのあるところまでが壁のごとくせり上がり、2mはあるだろう急な斜面と化しているのだ。

周りを見る。見た限りでは、すぐ近くに上りやすくなっているところはない。つまり、ここを上るしかない。

意を決して斜面を登り始める。草に覆われていない、土がむき出しの部分を選び足を出す。それが正解だったのかはわからない。今はただ、これ以上濡れたくなかったのだ。

土の斜面は少しぬかるんでいて、幾度か足を滑らせながらなんとか勢いをつけて駆け上がる。

ここまで3時間以上は歩いてきたが、まだ力は残っていた。

今の仕事が力仕事なおかげか、たいりょくがたしょう。事務員をしていた3年前では、そもそも歩いて帰ろうという発想にすらならなかったかもしれない。それがよかったのかどうかは、私にはわからない。

工場地帯に迷い込んで30分以上は経っていただろう。ようやく、道路に出ることができた。

さて、ここはどこだろう。スマホの充電も切れ、工事現場から抜け出すことに必死になっていた私は、自分のいる場所を見失っていた。

とにかく、歩こう。

ズボンの裾は濡れそぼり、靴は泥まみれである。それでも、もうすぐつけるような予感はしていた。

充電の切れる前のGPSには、目的地まであと30分ほどと表示されていていた。それを信じるなら、みどりの駅はそう遠くない場所にあるはずだ。

工場のある場所から、最初向かおうとしていた方角にあたりをつけて歩き始める。

しばらくすると、見慣れた建造物が見えてきた。

あれが何なのかはわからない。おそらくマンションかなんかだとは思うのだが、とにかくみどりの駅に向かうとき、車からよく見えている建物だ。

私は歩いた。再び長い距離を。

そうして、二度目の街へとたどり着いた。

ここまでくればあとはもう看板などを頼りに駅へと向かうだけだ。

目的地が目の前に迫ってきた安堵感からか。はたまた単純に蓄積された疲労からか。一気に足が重くなる。

だが、あきらめない。もう目の前まで来ているはずだ。

足を上げ、足を下す。ただそれだけに集中する。一度上げて下せば、一歩分進むことができる。あとはこれを目的地にたどり着くまで繰り返すだけだ。

そうして私は、見覚えのある道まで来ることができた。

ここまでくれば、正真正銘ゴールは目の前だ。

いままで必死に足は止めないようにしてきたのだが、ついに歩みが止まりがちになる。私は目的もなく進む時よりも、ゴール目前の方が歩みを止めやすいようだ。

あと少しと分かっているから、力を抜いてしまうのだ。

そこからは、休み休み歩き続けた。

そうして、たどり着いた。

みどりの駅。

駐車場。

私の車。

ああ、帰ってきた。

そうして車にたどり着いた私は、無事帰宅することが出来たのでした。



終わり良ければ総て良し

もしここまで読んでくれた方がいたならありがとうございます。

ただ終電を逃した男が2駅歩いて帰ったというだけの話だったのですが、個人的にはそれなりに大変な事件だったので備忘録的に書き連ねてみました。

すでにnoteを使っていたらすぐに書いていたかもしれないのですが、いかんせんこの当時はまだ使っていなかったので今一年越しに書き記すことと相成りました。

この記事で伝えたかった事。個人的にこの件で得た教訓というのは、コンビニや自動販売機のように普段当たり前にあるもの、いつでも身近にあると思っているものは意外とそうでもなく、ふとした瞬間にその恩恵を受けることが出来なくなることもあるということ。

だから、当たり前のようなことにでも常に感謝をもって生きていきたいですね。というだけの当たり前な話です。



それでは、長いことお付き合いいただきありがとうございました。

また次があればよろしくお願いいたします。



あ、ちなみに車にたどり着いたときにはもう5時を回っていたので、正直始発で帰った方が若干早いくらいでした。

でもまぁ、真夜中に4時間歩き続けるというのも貴重な体験だったので、今となっては良い思い出です。

それでは本当にこれで終わりです。

ありがとうございました。

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