見出し画像

【修行旅】星の巡礼道カミーノ ポルトガルの道⑤

9月13日 ポン・デ・リマ〜ヴァレンサ  38km

岩の連なる山道をひたすらに登っていく。

呼吸でリズムを取らないと、息をすることすら難しい。
散歩が発展して、この旅になったが、もはや散歩ではないなと思いながら歩いていた。
でもこれぞ漫画のような修行、という感じで楽しくもあった。

ゴムの木の中を一時間ほど登り続けただろうか。
ようやっと頂上である。
ザックを固定している紐を外したときに、ザックと背中の間に入ってくる風がとても気持ちよかった。途端に今までの苦労が全て吹き飛ぶほどの解放感に襲われた。
イベリア半島の気候は、夏の日差しが強い日でも、日本と違って湿気がほとんど無いため、汗をあまりかかないので過ごしやすい。

風と頂上からの景色にしばらくの間晒されたいと思い、ザックを下ろして岩に腰をかけた。
ウェアが完全に汗を吸収しきれていなかったので、着替えをして、しばらく無心で寝っ転がっていた。
木が揺れる音で、なんだか幸せな気分になった。

20分ほど休憩してから下山を開始した。
休憩しすぎて、目的地につくのが遅くなったら本末転倒だ。
連日見かけることの多かった夫婦と共に、草が生い茂る道を下っていった。

山を降りると、Rubiaesという村に着いた。
1€でハムのボカディージョ(フランスパンのサンドイッチ)を買って、昼ごはんにした。
実はこの村で、前日泊まっていたポン・デ・リマから20kmほど歩いている。
しかし、今日の目的地はここではなく、更に20kmほど歩いた先にあるヴァレンサという街である。

ヴァレンサはスペインとの国境にあり、ここまでたどり着けば、ポルトガルは今日が最終日となり、かなり日程を短縮できる。
若干の強行日程だが、予算もかなり少なく見積もっている僕にはこのくらいの苦労が必要だと思った。

ヴァレンサにある要塞から対岸のスペインの街、トゥイの景色を見ることを楽しみに、原動力にして歩く。
残り17km。

気温の変化が特に激しく、朝は10℃にまで落ちてかなり寒いが、日中は20℃半ばまで暑くなる。
暑い中、連日の疲労が足の裏に突き刺さる。
石畳の少しの変形が、足裏のあちこちに激痛を与えていく。
右足の小指に出来たマメをカバーしようとして、右足の内側に重心をかけて歩いていた。しかし、今度はその右足が悲鳴を上げ始めた。

暑さと痛さでだんだんとイライラが募ってきた。
そしてトドメを刺すかのように、耳元でハエが常に羽音を鳴らし続けた。
思わず叫びたくなるほどの感情になった。

映画『怒り』(2016)を観て共感したことだったが、今の自分のこの怒りのような、叫びたくなるような感情は、何に向けてのものだったのか。


暑い中でのこの長距離なのか。
ハエなのか。
足裏の痛みなのか。
肩の痛みなのか。
暑さなのか。
ここにきた原因でもあった、やってきたことが中途半端なことばかりだった自分への嫌悪感なのか。

たぶん、一つではなく、様々なものが積もり重なり、今の気持ちは作られている。そう考えると、感情は、AだからBというロジックでは語れないものだと思った。
そうしてふと途切れた時に、涙や叫びとなって現れるのだと思った。

当時、人の気持ちに近いところで将来働きたいと思っていた僕にとって、結果的にこんなことを考えることが出来たことはとても大きなことだった。

それからの10kmほどは、ほとんど何も考えずにひたすら進み続けた。
そんな中で歩くこと2時間。
やっとヴァレンサの街にたどり着くことが出来た。

ヴァレンサに入ってから、それまで目印にしていた黄色の矢印を見失った。どこかで違う道に入ってしまったらしい。
宿が見つからないので、街の人に聞いたりしていること1時間、やっとアルベルゲを見つけることが出来た。
街が大きく、当初自分があると思っていたところと全く違うところにあった。

チェックインするころには16時頃になっていた。
荷物をおろし、少しだけ観光しに行った。要塞から見える景色は、想像以上に綺麗で、今日感じたあらゆる怒りを吹き飛ばしてくれた。
少しだけリッチな夕食を近くのバルで取り、疲れを癒やすために早々に床についた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?