主要LSにおけるGPAの算出基準について

主要な法科大学院(令和2年司法試験における法科大学院別合格者数が50名以上だった7つの法科大学院=東大・京大・一橋大・慶大・早大・神戸大・中大LS)におけるGPAの算出基準及び進級ラインについて、各LSの報告書等を参考に分析してみました。

※今回検討するのはロースクールに進学する際に求められることになる学部のGPAではなく、ロースクールにおける成績評価としてのGPAです。ご注意ください。

検討の動機

① 就活等におけるロースクールのGPAの重要性 

 企業法務系の大手を中心に、司法試験の合格発表前に内定を出す法律事務所が少なからずあるほか、新司法試験制度が導入されて15年以上が経過し、ロースクールを卒業した先生方がパートナーや採用担当となることが増えてきた現状において、書類審査におけるGPAの重要性は司法試験の合格順位と同等あるいはそれ以上に高まっているように思われます。
 また、本採用と比べてサマークラーク等のインターンは面接を経ずに参加者を決定することが多いため、ESで記載した大学・ロースクールのGPAの影響は大きいようです(これはロースクールの同期の話ですが、インターンの面接時に「君、GPA低いね。席次は結構高いけれど…」と言われたことがあったそうです)。
 更に、就活のみならず入所後の留学者決定に際してもローのGPAが判断材料になるとの話を伺ったことがあります。

 以上のように就活における重要性の高いGPAについて、ロースクールによって高く出やすい/出づらいといった差があるとすれば、今後LS入学予定者が学校を選ぶに当たっての一要素になると考え調べてみました。


② 進級・修了におけるGPAの重要性

 私が在籍していたロースクールは「他のLSと比べて留年率が高い」としばしば言われています。個々人の留年の理由は色々あるでしょうし、進級・修了に当たってある程度高い学力の水準を要求するLSの方針も理解はできるのですが、在学生にとって留年は何としても避けたい事態であることに変わりはありません。

 そんな中で、そもそも私たちのロースクールにおける留年のラインは他のLSと比べて特に高いのかどうか、GPAの観点から検討してみました。

検討結果

※報告書等についてはwebから確認できる最新版を確認したつもりですが、その後GPAの算出基準等が変動した可能性もあるのでご了承ください。

① 東大ロー(参考:「8-4.授業科目の履修」)

・成績はA+、A、B、C+、C-及びFの6段階(平成23年度以前の入学者については、A+、A、B、C及びFの5段階)。原則として、A+は受験した者の総数の概ね5%、AはA+と合わせて総数の概ね30%までを基準とする。

・GPAの算出対象の科目は各年次における必修科目とする。

A+は4.5点、Aは4点、Bは3点、C+は2点、C-は1.5点、Fは0点に換算。

・進級要件は各年次における必修科目の3分の2以上の修得+GPA1.8以上


② 京大ロー(参考:62頁「4-1 成績評価」)
※GPAは「評点平均」として記載されている

・成績はA+、A、B、C、D及びFの6段階。それぞれ、A+は85~100点、Aは80~84点、Bは75~79点、Cは70~74点、Dは60~69点、Fは60点未満の素点に対応している。
・合格者の成績分布は、原則としてA+が上位5%程度、A以上が上位25%程度、B以上が上位60~80%程度となるようにしている。

A+は5点、Aは4点、Bは3点、Cは2点、Dは1点、Fは0点に換算。

・2年生への進級要件は基礎科目24単位以上の修得+評定平均2.0以上
・3年生への進級要件は基礎科目の全単位修得+基幹科目の22単位以上の取得+評定平均2.0以上


③ 一橋ロー(参考:7頁「1. GPAの算出方法及び基準値」)

・成績はA、B、C、D及びFの5段階

Aは4点、Bは3点、Cは2点、Dは1点、Fは0点に換算。

・2年生への進級要件は5科目の進級試験の合格+共通到達度確認試験で一定水準の成績+必要履修単位数の単位取得+GPA1.7以上
・3年生への進級要件は2年次の必要履修単位数の単位取得+GPA1.7以上
・修了要件は3年次の必要履修単位数の単位取得+GPA1.7以上


④ 慶應ロー(参考:39頁「2 成績評価および成績評価基準」)

・成績はA、B、C、D、E及びFの6段階。それぞれ、Aは90以上、Bは80点以上90点未満、Cは70点以上80点未満、Dは60点以上70点未満、E・Fは60点未満の素点(Eは再試験による合格)に対応している。
(追記・慶應ローの再試験制度ですが、2014年以降再試験は実施されていないようです(上記参考資料の38頁参照)。)
・成績分布は、原則としてA : B : C : D=15% : 25% : 40% : 20%の相対評価となっている。

Aは4点、Bは3点、Cは2点、Dは1点、Eは0.5点、Fは0点に換算。

・2年生への進級要件は全必修科目の修得+総履修科目のGPA1.5以上+必修科目のGPA2.0以上
・3年生への進級要件は2年次の全必修科目の修得+必要履修単位数の単位取得+2年次履修科目のGPA1.5以上
・修了要件は所定の単位取得+3年次履修科目のGPA1.5以上


⑤ 早稲田ロー(参考:3頁「Ⅰ 5. 成績評価」)

・成績はA+、A、B、C、F、H、Gの7段階。うち、A+~Cが合格、F以下が不合格となる。それぞれ、A+は100~90点、Aは89~80点、Bは79~70点、Cは69~60点、Fは60点未満の素点に対応している。
・成績分布は、原則としてA +: A : B : C =10% : 30% : 30% : 30%の相対評価となっている。

A+は4点、Aは3点、Bは2点、Cは1点、F・H・Gは0点に換算。

・2年生への進級要件は1年次必修科目26単位以上の修得+必修科目のGPA1.2以上(共通到達度確認試験の成績が下位15%の学生は必修科目のGPA2.0以上)。
・3年生への進級要件は2年次必修科目のGPA1.5以上


⑥ 神戸ロー(参考:13頁「4(5)修了要件」)

・成績は秀、優、良上、良、可上、可、及び不可の7段階。それぞれ、秀は90~100点、優は80~89点、良上は75~79点、良は70~74点、可上は65~69点、可は60~64点、不可は60点未満の素点に対応している。
・合格者の成績分布は、原則として秀が上位10%程度、優以上が上位30%程度、良上以上が上位60%程度となるようにしている。

秀は5点、優は4.5点、良上は4点、良は3点、可上は2点、可は1点、不可は0点に換算。

・2年生への進級要件は1年次必修科目のGPA1.5以上。
・3年生への進級要件は2年次必修科目のGPA2.0より上(2.0以下だと留年)


⑦ 中大ロー(参考

・成績はA、B、C、D、E、Fの6段階。うち、A~Dが合格、E以下が不合格となる。それぞれ、Aは90点以上、Bは80点以上90点未満、Cは70点以上80点未満、Dは60点以上70点未満、Eは60点未満の素点に対応している。

Aは4点、Bは3点、Cは2点、Dは1点、E・Fは0点に換算。

・(進級に当たって必要なGPAの基準を設けてはいるらしいのですが、具体的な数値を示した資料がweb上で見つかりませんでした…)

分析

 ここまでのデータだけだと算定基準の違いをイメージしづらいと思うので、いくつかのモデルケースを挙げて各LSにおけるGPAを算出してみたいと思います。

 Iさん・・・ローでトップ層。必修科目の約半分(4科目)で最高成績、残り5科目もそれに次ぐ水準の成績を取った。
 Jさん・・・進級が危ぶまれる。今年度の必修科目の試験は1科目不合格だった。合格した残りの8科目のうち、1科目は運よく上から2番目のランクの成績だったが、約半数(3科目)が合格者の中で最低ランクの成績、残り4科目もそれより1つ上のランクの成績だった。
 Kさん・・・ローで中~上位層。得意な2科目で最高成績、1科目を失敗したため合格者内で最低ランクの成績、残りの6科目は半数が上から2番目、もう半数が上から3番目のランクの成績を取った。
※全員2年生で、半期の必修科目を9科目18単位とした場合のGPAとします。

画像1

 3人の各LSにおけるGPAと、進級に当たって必要なGPAをまとめたのが上記の図です。いくつか傾向が見えてくると思います。

・「トップ層」(Iさん)や「中~上位層」(Kさん)のGPAは、東大・京大・神大LSと残り4つで0.8~1.0以上の差が生じることになる。→上記3つのLSは、最上位の成績がGPAで4.5点/5点に換算されるため。

・「進級が危ぶまれる層」(Jさん)のGPAはどのLSにおいても大きく変わらない。→東大LS以外は、合格者の中でも最低ランクの成績がいずれもGPAで1点に換算されるため。
・東大・京大・神大LSにおける「進級が危ぶまれる層」のGPAは残り4つよりも若干高くなるが、進級に必要なGPAも高く設定されているため、GPA不足を理由に留年する可能性は他のLSとあまり変わらない(か、より可能性が高くなりやすい)と解される。

 実際には、GPAの算出対象となる科目の内容・履修時期がロースクールごとに異なっているほか、東大LSで最高成績を取ることと早稲田LS等で最高成績を取ることは同難易度とは思えない等、モデルケースによるGPAの比較は机上の空論の域を出ません。しかし、各LSにおけるGPAの算出基準の違いは概ね上記のような傾向をもたらしていると考えられます。

 また、今回の分析は「最高成績」「合格者の中でも最低ランクの成績」を取った、といった仮定をしていますが、各LSで素点と成績の対応関係や相対評価の分布も異なっているため、LSによって最高成績(A+やA、秀)が取りやすい/取りにくいといった違いもあるように思われます。そこまでいくとGPAの算定基準という問題から出てしまいますが… 

まとめ

東大・京大の上位層のGPAは高く出る」という結果自体は以前から見聞きした情報から薄々予想はついていましたが、実際にモデルケースの数値にして1.0近く差がつくことには驚きました。GPAの数値上は、東大・京大LSの中~上位層(Kさん)≧早慶・一橋や中大LSのトップ層(Iさん)ということになりそうです。
 就活市場において「東大・京大LSの中~上位層であることの方が、早慶・一橋や中大LSのトップ層であることよりも価値が高い」と考えられているならそれまでの話ですが、もしその限りでないのなら、採用担当が所属していたロースクールのGPA算出基準の感覚で志望者のGPAを評価せず、あくまで同じローの候補者の学力の差異を判断する指標として(席次等と同様に)扱うこと、あるいはこちらのようにGPAの再算出を行った上で指標とすることが求められるように思います。
 逆に学生側としては、早慶・一橋や中大LS等に進学することで、東大・京大LSで自分と同程度の立ち位置・席次の人よりもGPAが低く算出され、就活において不利に扱われるおそれがあることを念頭に置く必要があるように思われます(早稲田等のLSを貶める意図は全くありません)。

 また、下位層のGPAにほとんど差はつかないことはともかく、早稲田LSの客観的な進級要件が他のロースクールと比べて軽いというのは予想外でした。 合否判定を含めた素点の付け方が、早稲田LSは他のLSよりも厳しいということなのでしょうか。
 今回検討対象としたロースクール内では、早稲田LSのストレート修了率が一番低い(「ストレート修了率」=未修なら3年・既修なら2年で卒業した者の占める割合。詳しくは、以下のnoteをご覧ください)のは確かなので、何かしら留年率を高めている要因があるとは思うのですが、今回の分析では分かりませんでした。


最後に

 神戸ローの成績、おみくじみたいで面白いですね。

 

 



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