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「犬はバナナを食べない」8

 「◯月 ◯日 拝啓 お母さんへ
お元気ですか?そちらには、もう慣れましたか?こちらは、ほぼ変わりはありません。一人暮らしは、お母さんが入院中に、もう、平気になってしまいました。悲しいことに、この方が居心地が良いのです。より子が、ルームシェアしたい、と言ってきましたが、断りました。私としては、犬を飼いたい。トイプードルとかじゃなくて、日本犬、柴犬のような犬を。それは、無理なので、金魚を飼いました。近所のお祭りで、一匹だけ、釣って帰ったのです。大きいやつで、一匹で、水槽を駆けずり回っています。あんまりに元気なので、急に死なないか、心配なくらいです。
 学校は、ぼちぼちやっています。私の成績は、相変わらず、文系に強く、理系に弱いのです。体育はもってのほかです。誰に似たのでしょうね?
 あの二人は、タワーマンションで、まだ暮らしています。それは、私にはよくわかりません。でも、それでいいんです。それぞれの人生ですから。
 ミキヨシの彼女は、奇跡的に回復して、今は病院のデイケアに、通ったいるそうです。良かった。私は、時々、彼女のことを夢に見ます。なんだか、他人とは思えないのです。同い年だからかな?
 アパート暮らしは、快適ではないですが、皆、優しいです。世知辛い世の中ですから、いち高校生にとっては、貴重です。ホッとしましたか?
 と、言うわけで、私は、元気です。
 今度は、お母さんのところに、行こうと思ってます。私一人で行きますが、さびしがらないでね?
 あらあらかしこ  あつより」 
 母用の、日記をそっと、閉じた。
 明日は、母の月命日にあたる。冬はすぐそこまで、やって来ていた。
 そっと、日記を枕の下に滑り込ませた。寝付けるだろうか?ぼんやりとそう思いながら、古い天井のシミを、見つめた。目をつぶったら、母がうっすら見えた。ちょっと泣いてしまって、思い切り息を吸い込んだら、今度は吐けなくなって、過呼吸とは、厄介なものだと思った。それでも、その日はやっと眠れた。

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