ミシン

わたしはミシンが好きだ。

初めてミシンを触ったのは、確か小学校5年か6年の家庭科の授業だったと記憶している。その頃学校にあったのはミシンと机が一体化したタイプのミシンで、一台ずつ足の所にタイヤが付いており、好きな場所へ移動させて使うことが出来た。家庭科室が狭かったのか理由は分からないが廊下までそのタイヤ付きのミシンを移動させ初めてのミシンを踏んだという記憶が残っている。多分、縫うものは各自好きな物を選んでよく、わたしは台形のスカートを選び市販のパターンを基に作った。生成りの少し厚手の生地で、脇にファスナーを付けた。不思議と、この辺りのことまでかなり詳細に覚えている。今思えば、小学生にしては随分と難易度の高いことをやったなとなんだか不思議な気持ちになる。

それから家にあったミシンを使うようになる。

今現在使っているミシンはこの頃から使い続けている物で、もとは、祖母が母の為に買った物らしい。「何故祖母が買ってくれたのかは分からない」と母は言うが、お嫁に来てくれた母に何かしてあげたいと思った祖母の気持ちが詰まっているような気がして、何となく愛着がありわたしはそのミシンをとても気に入っている。

わたしはこのミシンと共に何十年と過ごして来たので、もはや同志のような存在である。

ミシンから離れた時期もあったが、引っ越しのたびにちゃんと連れて来ているのはご縁以外の何者でもないような気さえするのだ。

好きなことをしている時間というのはかけがえのないものである。そしてこれがわたしにとっては、何にも変えがたい自己表現の術でもある。自分には何も無い、と嘆く時もあるが、ミシンがあることで自我を保つ事が出来る。少なくとも、2020年はそうで、ミシンに本当に助けられた気がするのだ。

世の中には不変なものなど無いのだろうが、唯一好きなことだけは、小さい頃から変わらずにそこにある気がする。

子供の頃から好きだったものは大切にするべきなのだ。それはきっと今も変わらず好きなはずだから。

わたしはミシンが好きだ。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?