僕が小説を書くときに気をつけていること⑤
ほかの小説家さんがどのようにして小説を書いているのかはよく知らないのですが、僕は元々が舞台の脚本家だったので「コーヒーが冷めないウチに(発行部数85万部)」を初めて書いた時は物語が存在していて(元々は舞台だったので)、そしてセリフもありました。
つまり、ストーリーが結末まで決まっていたということです。
もし、ストーリーもなく小説を書き出していたら、僕はきっと最後まで書ききれなかったと思います。
だから、二作目「この嘘がばれないうちに(発行部数25万部)」を書いた時も慣れるまではちゃんとストーリーを結末まで決めて書こうと、一旦、台本を書きました。
小説を書くのはものすごく時間がかかるのですが、僕は25年以上舞台の脚本を書いてきたので台本を書くだけなら二週間程度で書き上げる事ができます。セリフだし、書き慣れているので早いんです。
その台本を担当さんに読んでもらって、ストーリーの構成を決めて小説にする。
これは第三作目「思い出が消えないうちに(発行部数15万部)」も同じでした。
僕は小説のプロットというものを書いた事があまりないので、この方法が一番手っ取り早かったんです。
なので、もしかしたら、これを読んでいる小説家希望の方には残念ながら参考にならないと思います。
小説の書き方に正解はないと思いますし、自分なりのプロットの書き方、ストーリーの立て方はあるんじゃないかな?
僕は現在新作を執筆中です。
でも、この新作はこれまでの台本を書いてから小説にするというスタイルを捨ててみることにしました。
新しいやり方が、新しい発想だったり、スタイルを作ってくれるかもしれない。
そんな期待を込めて、あえてアウェイ(敵地)で戦ってみようと。
実は、この作品を書き始める前に「台本を書いて小説にする」方法で小説を書き上げているんです。
おそらく本にすると300ページくらいのものでした。
でも、同じ方法論で書いたそれは惰性というか、慣れというか、自分で読んで全然面白くなかった。
だから、世に出さないことに決めました。これまでコーヒーシリーズ三部作で125万部を超えているのだから、出せばそれなりに売れるだろうとも言われました。
でも、僕も担当さんもこれまで読んでいただいた読者の皆様に、これを読ませていいのか?という疑問にぶつかったんです。
何度も書き直そうと挑戦もしました。でも、なにか、こう根本的に面白くない要素が影を潜めている。
これを世に出すのは、読者の期待を裏切るのではないか?
心から面白かったと言ってもらえるのか?
川口ってやっぱりこの程度なんだよ。コーヒーはたまたま売れただけ。Amazonのレビューなんてひどいもんだからな。
そんな声が聞こえてくる。そんな声に負けるような気がする。
出すか?出さないか?
悩みに悩みました。結果、出さないという結論に達し、その日から3ヶ月近く一行も書けないというスランプにも陥りました。
でも、僕は長年の舞台の台本を書く経験から知っていました。
スランプを超えた後には必ず良い作品が書けるようになる。
舞台「コーヒーが冷めないうちに」の台本を書く直前にも「芝居を辞める」と言い出すまでのスランプがありました。
作家は、クリエイターは苦しめば苦しむほど、良いものを書けるようになるんです。
だから、苦しいスランプであればあるほど、僕はとことん苦しむようにしています。
苦しむことを楽しむ。
完全にドMですね。実際、前回の作品をボツにした後「もう小説を書くのはやめてしまおう」と思ったほどです。
それでも、ある日、突然その苦しみの中で閃くんです!
あ!これだ!
って。
これが書きたかったんだ!
って。
だから、僕が小説を書くときに気をつけていることは、
スランプを怖がらない
です。
川口ドM俊和