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【掌編小説】ムロツヨシとマッキー極細ペン

ムロツヨシと私は恋人だった。

夢のなかで私たちは確実に恋人だった。

世界は退廃していた。

シン・ゴジラによって東京は壊滅状態だった。

高層ビルは軒並み破壊され、家という家は崩れ落ち、

道路は陥没し、街路樹はなぎ倒されていた。

遠くの方からシン・ゴジラの咆哮が聞こえる。

きゅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう

と聞こえる。

むしろそれ以外の音は聞こえない。

いつも私の心をざわつかせる踏み切の音も、

アホみたいに繰り返し垂れ流されるイオンの今日は火曜市の歌も、

私のことを頭のねじがはずれた馬鹿だと揶揄するあの女のけたたましい声も、

シン・ゴジラが全部、ぜんぶ消してくれたありがとう。

私とムロツヨシはもはや廃墟と化した駅で

愛し合っていた。

もう死ぬからもういいよね、そう言って私たちは全裸になった。

一旦スニーカーをはきなおして、

散らばっているガラスや埃や瓦礫を出来る限り掃けた。

もう一度スニーカーを脱いで、完全な全裸になる。

できるかぎりいくのを我慢して、知っている限りの体位で試した。

こんなのエロビデオでしか見たことない、そんな体位も試した。

関節技が完全にきまっちゃってる体位も試した。

ムロツヨシはいくことができなかった。

ごめんとムロツヨシは謝る、謝んなくていいよ、と返す。

そんなことよりいちゃいちゃしようよ、どうせ私たちあと少しで死ぬし。

シン・ゴジラに踏みつぶされるか、ビームを浴びるか、放射能で死ぬし。

私はムロツヨシの鼻の下、唇の上に位置するほくろが好きだと言った。

ありがとう、これ俺も気にいってるんだとムロツヨシが言う。

私は端に寄せたリュックサックからマッキー極細ペンを取り出して

ムロツヨシに渡した。

「ほくろ、書いて」

そういうと、ムロツヨシは神妙な面持ちで極細側のキャップを開け、

ムロツヨシと同じ、鼻の下、唇の上にほくろを書いてくれた。

「おそろい」

私が言うと

「おそろい」

とムロツヨシが復唱して微笑んだ。

シン・ゴジラは先ほどより少し近くに移動していた。

ビルをなぎ倒す、電柱をなぎ倒す、学校を、病院を、風俗店を、

あらゆる企業を、あらゆる悪も正義もぜんぶぜんぶなぎ倒す。

きゅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおう

と彼あるいは彼女、もしくは彼らは、ひと吼えした。

私たちはもう死んでしまうだろう。

ムロツヨシと同じほくろを携えて、何も身につけず、

死んでしまうだろう。

ムロツヨシと私はほくそ笑む。

こんな死に方も悪くないと言って、おそろいのほくろでほくそ笑んだ。


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夢にムロツヨシが出てきました。

#小説 #ムロツヨシ
#シンゴジラ




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