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短歌

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2020年1月の記事一覧

短歌的実験(5)

短歌的実験(5)

風景の骨として上下する、いつも、からだを揺らす水平線が
切り取った人差し指の腐敗する時間は青く魚群のように
落下する少年少女、海遊は「盲目駅」へとふたたび戻る
水の中で花はつぎつぎ燃えはじめ罪状だけが燃えずにのこる
海岸で拾った骨の潔さ詰めたらきれい、恋人がいた
夜間飛行する蝶の話を始めよう罪人として生まれて
消息は途絶えてしまった裏庭を掘り進めればガラスの破片
孵化をした満

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短歌的実験(4)

短歌的実験(4)

素性の知らぬ背骨をすっとなでるとき感情論は火事の話に
円筒形の器にふたつ穴を開け心臓が土になるのが最後で
首筋の影を擽る舌先の瓢塚ひとつ肌が冷たい
おんなと一緒に患部のなかに蕩けては秋の写真が黄ばんで写る
筐体の壁をすべすべに磨き上げ蜜蜂はとまることができない
閂はスポンジ状に、表までよろけるように、蕩けるパドック
ベランダからの海、靡き寝の切れ端が盗んだことばのように吹かれ

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短歌的実験(3)

耳のなかの海

まだ海を知らない山羊が午後二時のプールに肩甲骨を浮かべた
やわらかい海を包んだ赤玉を終わったからだの膝に並べる
づがいこつまだやわらかいころだったそらへ吹かれるあかいセロファン
海のない船着場からふるさとの夜を通って花弁に触れる
ひるま食べた果実の匂いをさせながら地肌の翅が海へと曲がる
転がって転がりつづける思い出が凹面鏡のなか(ゆるされない、される
一ツノ沈黙シタ火事ヲ愛シテハ

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実験的短歌(2)

実験的短歌(2)

こにこに そこにこ にほいあい ほのかに ほのさきつきの やみのほたるの
もひやけのしりしりさしり島のこと鳥しふるあめのさとふるゆきの

ひとではないひとのしぐさがひとらしい紅いたまごを飲み込む母は
半島のうらがわの胸のあたりまで鳥の遅刻のかかわりあえば
ひとの家の匂いは渦巻貝のなか岬のさきへふたり曳舟
まだ眠る喫水線の上下する体液はすこし濁っているが
擬態する母の翅へと滴

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実験的短歌(1)

実験的短歌(1)

焦点をすこしずらせば影像とその人物が吊り下がっている
川面へと砕けるひかりが脱皮するいつまでぼくをつづけるのだろう
貴婦人のようなつぼみに添えている鳥が初めて空を飛んだ日
飛行機の墜ちた日のこと海岸に耳の打ち上げられた日のこと
眠れない小鳥とともに春の夜は花粉を肺の奥まで吸い込む
ペリカンの空に守礼の浮かびきて骨盤のなか綿布をたたむ
生まれなかった姉の名前をなぞりつつ血の染みる

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