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わたしの本棚119夜~「彼岸花が咲く島」

 昨年韓国映画「マルモイ」を観て、母国語を変えられた人たちの悲痛な叫びを知り、今年、日本統治下の台湾でも日本語の強要があったこと知りました。そして、今回の芥川賞受賞作。二ホン語、女語が入り混じり、女性の統治と島全体が共同体のような架空の島を舞台にしたこの小説。読み応えありました。今回、文藝春秋9月号は、芥川賞2作品の全文掲載、選評もあってお得でした。

☆「彼岸花が咲く島」 李琴峰著 文藝春秋9月号全文掲載  1100円(税込み)

 一年中彼岸花の咲く島に、少女宇美が漂流したところから物語が始まります。選考委員の堀江敏幸氏の言葉を借りれば「クレオール的な二ホン語と歴史伝承のための女語が混在する」島です。男性による搾取の歴史という過去のあった島は、ノロという女性たちが統治するようになりました。

 この小説、いろんなふうに読めます。選考委員の小川洋子氏は、宇美と島の女游娜との奇妙な情の通い合い、なりたい自分になれない島の男拓慈を宇美たちはどうにかして救い出そうとする青春小説として読むとあります。松浦寿輝氏は、「日本」とその外部、文化の「女性性」をめぐって、小説的思考を凝らした実験小説と読んでいます。この考えは、島田雅彦氏が、島がいかにして理想郷として可能になったか、言及されないことに不満ながら、自己表出の新機軸を打ち出したと捉えている選評とオーバーラップしました。

 島には家族制度がない、というのも面白い設定でした。成人すると、一人でも同性とでも異性とでも暮らしてよい。島に残る決意を決めた宇美に遊娜は、唇を合わせ、秘密めいた感情がふたりを結びつけます。

 島以外の場所では、今でも男が歴史を司り、力を握っているんだ。女や子供は男に怯えて、男同士の戦いや争いは次々と起こって、たくさんの人が死んでいく。「島」の歴史からノロが学べることは、決してあんな歴史を繰り返してはいけないことさ、という大ノロの言葉には、既存の男性社会への皮肉や警鐘が描かれているようでもあります。架空の島を舞台に、多言語、言葉の重要性、ジェンダー、LGBT、女性の社会進出などの諸問題を時として神話化させながら、いろんな角度から描いている、重層性に富んだ作品でした。

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