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【短歌三首】滲む氷は
色むらの滲む氷はこの夏の細胞分裂だったでしょうか
等しさを肥やす (瞼の裏側で欠けた視線を繕っている)
疑似鼓動としてどくりと回す針 砂の入っていない砂時計
/とわさき芽ぐみ 2021.8.2
【短歌九首】未来 2021年6月号 掲載歌「泉」
どこへ行くでもなく濡れてしまうこと怖いことですか、傘を放棄して
砂は汚泥となる練り上げて似つかわしい人間を見よこれがあなただ
曖昧な犠牲を取り柄にして今日も夕焼けで勝手に火傷する
炎症はライフワークのようでまたあなたのことばで冷やされてゆく
暗闇の色ではなくて色彩の混濁だこれは。舌足らず、滴らす。
ぎこちない笑窪からひび割れてゆき粉々になる頃に会いたい
安住の地でもないのにくるまれて風
【短歌九首】未来 2021年5月号 掲載歌「オルゴール」
長過ぎる靴紐ゆらと波打って蓄えてきた影踏みながら
信号の内側でひとり歩くひと徒歩圏内でひとに会いたい
沈黙が肥えてあなたは舌になる 凪いでいるのはカーテンだけだ
ただ白紙 尖らせていた芯を折り塗り潰す 雷(らい)、荒い目のなか
導火線いくつもいくつも見つけては束ねてゆすぐ 瞼は蕾
沈み込む足音を具に 溢れ出る涙を飲めばあおい夕焼け
螺旋状言語ただようこのからだ無線であればほどくことなく
【短歌十首】未来 2021年4月号 掲載歌「●Rec」
また同じトレーナー着て過ごしてる挨拶の仕方まで忘れそう
コンビニにふるさとと同じくらいひと、溢れてるなあ ジュース買おうか
インスタにあげる写真は撮れなくて爆音で咲く花火は鼓動
ゴミ出しのときだけ外す この顔でご近所さんと会っておきたい
少しだけ離れて見ればアパートはビンゴカードのようだね 続く
カシミヤの黄色いセーター着ないまま季節が変わる 似合うのになあ
親指の身長くらい開いている
【短歌十首】未来 2021年3月号 掲載歌
まだ暗い朝を確認するために選ぶボウタイブラウスの袖
しらじらと宇宙のほどけてゆく様を映すコーヒー両手で包む
シリアルがふやけるけれどやさしくは感じないなら偽善かもだね
馬鹿みたいに電線を吐くこの街へ届く非接触型Fワード
ポッキーのチョコレート側から開けてべたべたにする 爪が伸びたな
2リットルみねらるうぉーたーみねらる、は実らなかったときの動詞、たぶん
歯と爪が同じざらざらだってこと絵
【短歌七首】二月尽、間引かれて
そこに人がいることとおく後悔の数だけ燃やす線香花火
選んだと言えない浅い覚悟でも握り締めたらくきやかに赤
がむしゃらのしゃらの部分で揺れている(きっと檜だ)寒くない風
空なんて名乗る空白くうはくを受け入れてなお、痛いんだ、痛い、
キャッシュレスで渡りたくない街 皮膚にICカードの角食い込ます
そのときも生きていること遠過ぎて定期の印字かじりつきたい
ください 機微なんて狭い 爽やかはま