ジョアン・フェリックスが輝くために

現状

アトレティコ最大のクラック、と言えば現在は間違いなく、バルサから加入した最強ストライカールイス・スアレス、あるいは世界最高のGKヤン・オブラクの名が上がるだろう。
そんなアトレティコには、2年前まではレ・ブルーのエースが居たらしい。

そのメンヘラの代わりにやってきたのがジョアン・フェリックスその人である。
デビュー戦となった、ラ・リーガ19-20シーズン第1節ヘタフェ戦からその名を轟かし、異論反論あれどゴールデンボーイも獲得した、稀代の天才である。

その将来を約束されているはずの天才は加入2年目、飛躍が期待された今期も伸び悩んでいる。

助監督としては破格の人気を誇ったモノ・ブルゴスが退任し(ニューウェルズの監督に就任)、新たにアシスタントコーチにネルソン・ビバスを昇格させたアトレティコは、代名詞の4-4-2から3-5-2へと変革を遂げている。
開幕当初は4-2-3-1、4-3-3を中心に戦っていたが、複数の要因が重なり可変式の3-5-2にシフトしたのである。

この戦術変更によって大きな影響を受けたのが、チームの象徴の1人であったサウールであり、去年躍進を遂げたレナン・ロディであり、チームの中心として輝くはずであったジョアン・フェリックスなのである。(他にも新加入のピボーテ2人も適応に苦しんでいる。)

アトレティコが採用している3-5-2は、簡単に言い表すならば「全員サッカー」であり、今のアトレティコは、全員が主役になれるチームである。と言えるかもしれない。
従来のリトリートに加えて、連動的なハイプレスも導入された現在のアトレティコでは、ルイス・スアレスでさえファーストプレス隊の一員となり前線で走り回る。(バルセロナ時代からは想像も出来ないが...)
そんなスアレスの相棒は5-4-1のブロックへの変形も苦にしない守備力を持ち、ジョレンテやトリッピアと右サイドで完成された連携を誇るアンヘルコレアである。
さらに、フェリックスの攻撃時のベストポジションである、左のハーフスペースでは、加入3年目にしてようやく、やっと、真価を発揮し始めたトマ・レマルが躍動している。

飛躍が約束されたはずの2年目、フェリックスは新戦術とこの2人の活躍によって定位置を獲得するに至っていない。

課題

もちろん、瞬間風速でいえば、フェリックスに勝るものはアトレティコにはいない。
それでもフェリックスがポジションをつかめないのはなぜなのか。

守備面ではその課題は顕著である。
プレス能力の低さである。ライバルとなるコレアとレマルはポジションこそ違えど、攻守の切り替えが素早く、ネガトラで抜群の存在感がある。
一方のフェリックスは、スアレスが仕掛けるプレスに連動することが出来ずに首を捻られたり、5-4-1のブロックのサイドでポジショニングに苦しんでいるシーンが多い。
さらに言えば、そもそもの問題として運動量も足りていないことが多い。
ハイプレスを導入したチームにおいて、これは致命的な欠陥になりうる。

ついに4-4-2で引きこもる戦術から脱却した今季のシメオネアトレティコにおいて、守備ができない選手の居場所は最前線にしかなく、その最前線のスアレスですらコースカットプレスは上等で、老体を引き摺ってでも走っているのだからフェリックスも守備面での向上は必須となる。

攻撃面に目を向ける。
チームは左サイドの連携からの崩しと、右サイドのオフ・ザ・ボールの動きで崩すスタイルが確立されている。
左サイドの中心選手はレマル、カラスコ、エルモソ
右サイドの中心選手はコレア、ジョレンテ、トリッピアである。
ここに割って入ることができていないのがフェリックスの現状で、左のハーフスペースと大外のレーンを自由に使いたいフェリックスは、アトレティコらしからずも、攻撃がある程度整備されている今のチームとは、守備面だけでなく攻撃面でも相性が悪い、と言わざるを得ない。

解決策

解決策を勝手に考える過程で参考になる試合がある。
CLベスト16チェルシー戦のファーストレグだ。
この試合、途中出場のジョアン・フェリックスはコレアがプレーしていた右サイドハーフの位置に入った。
5-4-1のサイドハーフである。

5-3-2と5-4-1をアンヘル・コレアのスライドで可変していることを考えると、セカンドトップのフェリックスがこの位置に入るのは妥当と見ることも出来るかもしれない。
ただ、当たり前だが、ジョアン・フェリックスはジョアン・フェリックスであり、アンヘル・コレアでは無い。
守備面や汎用性で言えばコレアの方が数枚上手であり、今のコレアのプレースタイルは長い在籍年数の元でコレアが辿り着いた境地であり、ジョアン・フェリックスが一日やそこらで身につけられるものでは無い。
ただ、5-3-2でサイドを使われて失点するシーンが多かった以上、ツートップのどちらかはスライドする能力が間違いなく求められる。

また、言及するまでもないが、レマルの位置で起用するとなるとゴールから遠い位置でのプレーが中心となる上に、守備負担が遥かに大きくなるために現実的ではない。

となると、残った考えられる解決策はただ一つではないか。
最前線で開花すること、すなわちルイス・スアレスのポジションでプレーすることである。

ルイス・スアレスは御歳34。
その得点感覚は依然健在ではあるが、スピードを始めとしたフィジカル面の劣化は否めない。
スアレスは来季で契約が満了となり、おそらく退団するであろうし、そもそも、来季にフル稼働できるかどうかも怪しい。

冬に退団したジエゴ・コスタの後釜であるムサ・デンベレは能力の片鱗は見せつつも買取オプションを行使しないことが濃厚となっており、来季再びストライカーの補強が必要となる。
スタメンを固定したがるシメオネアトレティコにおいて、新加入のストライカーの適応は至難の業であると言えるだろう。

一方で2列目は多士済々である。
覚醒したレマル、ジョレンテに、攻守に安定したコレア、カラスコもいる。
(彼らは全員現戦術においてレギュラー)

また、フェリックスに目を向けても、セカンドトップ以外のポジションではベストを発揮できないままでは、チームの戦術の幅も狭まってしまう。

苦手な守備での負担が大きくなるサイドよりも、比較的守備負担の小さいストライカーのポジションは適任と言えるのではないだろうか。

無論、スアレスと同様なプレースタイルとしてのストライカーにはならないだろう。しかし、9.5番としての適性は十分ではなかろうか。元々得点感覚も優れており、パスの受け手としても、出し手としても遜色ない能力を持っているはずで、少なくとも試さない手はないのではないだろうか。

レマルの中盤起用、ジョレンテのアタッカーとしての起用などコンバートには定評がある「らしい」チョロ・シメオネに、個人的には是非挑戦して頂きたい。

見たいのは、ピッチで放浪するジョアン・フェリックスではなく、躍動するジョアン・フェリックスであり、彼の成長、覚醒がチームの問題を解決しうるならそれはもっと素晴らしいことではないだろうか。

終わりに

最後まで1ファンの妄言に付き合っていただきありがとうございました。

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