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ラグとレイン 解説+α

Lixyと申します。今年の2月ごろから「強烈誘拐」という共有アカウント内で活動していました。いくつか参画した作品はあるのですが、当記事は特に僕が中心となって制作いたしました「ラグとレイン」についての解説です。

※この先の文章には、アニメ「serial experiments lain」の核心に迫るネタバレがあります。理解した上でご覧ください。







ラグトレイン

歌詞改変、人力、セリフ合わせ、映像を担当しました。技術的な面は、この作品の完成に大きく寄与してくれたあるくおすし氏の作成した解説動画(https://www.nicovideo.jp/watch/sm39295693)(https://www.nicovideo.jp/watch/sm39305255)をご覧ください。

そもそもこの音MADは、僕がぽつりとツイートした「ラグトレインとラグと玲音」というツイートを瀬畑黒さんが拾ったことが発端でした。

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現在は削除済み

制作の流れは以下の通りです。この先はプロセス毎に解説していきます。

(アイデア)→曲、素材の解釈、歌詞改変→人力、セリフ合わせ→mix→映像

曲、素材の解釈、歌詞改変

二次創作物にストーリー性を持たせたい場合、当然ながら原作の雰囲気や世界観をある程度理解している必要があります。それに加えて二つ以上の作品を複合させるものであれば、異なる世界観を半ば恣意的にすり合わせることも求められてきます。
今回は合作という制作手段を取っているため、僕がラグトレインという曲、serial experiments lainという作品に感じていることをそれぞれ言語化し、制作メンバー間で共有しました。

実際に共有したドキュメント(一部)

このように「あなた」がどこかへ行ってしまうラグトレインと、「あたし」が自ら大切な人たちの前から消えていくserial experiments lainの微妙な差異を歌詞改変ですり合わせようと考えました。ここで最も意識しているのは、画像太字部分の「歌詞改変はアニメ最終話後のワイヤードに隔絶された玲音の心象をイメージしたものにしている」という舞台設定です。
例えば、映像の冒頭部分では列車に玲音が乗っているのに対し、アウトロでは誰もいない車内が映されています。ここの映像を担当したのは僕ではないのですが、このように複数の作者間で解釈を同一のものにしておくことにより、全体としてまとまりのある映像に仕上げたいという狙いがありました(そして、実際に成功しましたね)。

離れ離れの場所を繋ぐ列車は行ってしまったね
失くした言葉を知らないなら そのままどこにもいかないで
~(間奏)~
離れ離れの場所を
離れ離れの場所を繋ぐ列車は行ってしまったね
失くした私を知らないでしょ? 「レイン」はただ一人で
リアルは既に溶けて世界からはちぎって離して
失くした言葉を知らないなら そのまま私を閉じ込めて

そうして生まれたのがこの歌詞です。1番サビで「そのままどこにも行かないで」、ラスサビの同箇所で「そのまま私を閉じ込めて」と歌わせることで、玲音の精神面での成長を表現しています。

人力、セリフ合わせ

次に人力です。50音+αを切り取るまでは順調だったのですが、歌わせる段階でかなり苦戦してしまいました。試行錯誤を重ねた結果、

素材の音程をVocalShifter(以下ボカシフ)で一定にする→そのまま使うと短い母音(今回は確かう、え、お、だった気がします)をボカシフで5倍程度に伸ばす→REAPERで並べる(子音+母音)→1度出力してボカシフで微調整

という、あまり特徴のないワークフローに落ち着きました。人力もセリフ合わせも完成したwavファイルをあるくおすし氏に渡して最終的なMixをお願いしています。
人力に関してはあまり特筆すべき点はないのですが、母音をボカシフで引き伸ばすと(もちろん素材との相性こそありますが)REAPERで同じことをするより綺麗に仕上がる感覚があります。


そしてセリフ合わせ。以下文字起こしとその解説です。

ごめん なあに 怖くなんかないよ 心配しないで
今、あたし 会いたい友達がいるの
コネクト ワイヤード

本来の姿である集合的無意識に戻った玲音。しかし、玲音が忘れられたのはあくまでも「serial experiments lain」内でのお話。玲音という人間、いや、存在の変遷を作品として見つめていた僕らから忘れられることは不可能です。そんな彼女は視聴者に向かって最初にこう語りかけます。「ごめん、なあに?」。もしかしたらあたしはみんなから怖がられているかもしれない。そう感じた彼女は「怖くなんかないよ。心配しないで。」と続けます。「会いたい友達」が誰なのかは僕にも明言できません。ありすかもしれない、お父さんかもしれない、玲音を覚えている僕らのことなのかもしれない。玲音のみぞ知ることなのでしょう。

誰とも繫がってなんかない
うるさい!
人間は無意識で繋がってる存在なんだよ それを繋げなおしただけ
嘘だよそんなの!
お前は岩倉玲音か?どうして死んじゃったの?
あたし それがあたし これがあたし
じゃあ あの人たちは誰?

どうしてこんなことになっちゃったのかなあ
あたしが何かしちゃったのかな
そういうことにならないようにって
変なこと言っちゃわないか いつもあたし気をつけてたのに
あたしが肉体を持ってちゃいけないのかな
あたしの知らないあたしが 何をしてるの?
あたし リアルだよ 生きてるよ
どっちでもいいよそんなの!
あたしの存在次第が××と××の××を崩す××だったの(注:××はセリフを意図的に崩した部分。元のセリフが物語の核心に迫る内容であるため、モジュレーションなどで該当部分をぐちゃぐちゃにしています。)
繋がってなくても 友達

岩倉玲音には複数の姿、人格が存在します。ここで台詞の掛け合いをしている複数の話者は、誰がどの玲音なのかやはり明確になっていません。この部分を単なるアニメの切り貼りとして因数分解していけば、もちろんどれがどの人格のセリフなのか機械的に導き出すことは可能です。しかし、僕はこの作品を、岩倉玲音が僕らの手を借りて疑似的に「遍在」する範囲を広げた結果としてのものだと捉えています。ラグとレインの岩倉玲音は、あくまでも彼女がリアルワールドで顕現した形の一つなのです。

Mix,映像

先述の通り、最終的なMixはあるくおすし氏が行ったため、強烈誘拐のアカウントから投稿されている解説動画をご覧ください。
また、映像制作段階で、ちょうど制作時期にlainを視聴していたあるくおすし氏がアニメ本編と紐づけたタイムスタンプを作成してくれました(!?)。以下に閲覧用リンクを記載しておきます。

また、ラスサビの素敵な素敵なイラストは瀬畑黒さんに描いていただきました。普段はふざけてばかりですが、ここぞという場面で120点満点の仕事をしてくれるときの彼は最高にかっこいいです。改めて本当にありがとうございました。

以上が「ラグとレイン」についての解説となります。改めて、この作品を見ていただいた方、制作に関わってくれたメンバー、serial experiments lain、ラグトレインを創ってくれた数多のクリエイター様たちに深くお礼を申し上げます。本当にありがとうございました。


他にも僕のお手伝いした作品がいくつかあります。その一つである「STAR FRUITS SURF RIDER GIRLS」の担当箇所を最後に説明して筆を置きたいと思います。

STAR FRUITS SURF RIDER GIRLS

4:54~の映像で使用されている詩を担当しました。以下全文です。

戦争って殺し合うんだよ。綺麗な星空を見るためなんだよ。

風呂はあったかい。死後の世界もそうなんだって。
記憶を洗濯した。すぐに日記が汚してしまうけど。

死んだ都市遭遇した。でも街灯は生きてた。

寺院の神様だって結局にせものなんでしょ?だって写真に残ってる。

空っぽの住居雨音はお友達。今日も2人きりでお昼寝してたよ。

技術だって故障するんだ。離陸する前に教えてくれればよかったのにね。

調理された迷路迷路ではなくて、それでも道に迷っちゃって。

寝て起きて食べて移動して、月光の布団に包まれて。考えたらこれを毎日ぐるぐるだな。生きるとはつまり記憶螺旋のことだったんだよ!

生命って終わりがあることなんじゃないかな。水槽があったって、技術があったって。

電車捕獲したら動かなくなっちゃう。波長捕獲なんてできっこない。まあ、だから、食料があるうちにどんどん進んじゃおう。

破壊された過去文化の破片が飛んでくる。ねえ、やっぱりヘルメットはかぶっといた方が良いよね。

知らない仲間がいる。接続してる。

オリジナルの詩ですが、どこかで見覚えのあるワードが頻出していると思います。この詩はひとまとまりになっている部分が全てで12個あるのですが、これはアニメの総話数と一致します。そして、この動画の題材であるアニメ「少女終末旅行」の各話にはそれぞれサブタイトルが設けられています。例えば1話なら「戦争」「星空」、2話なら「風呂」「日記」「洗濯」。先述の詩はこれらのサブタイトルを全て用いて制作しました。このnoteでは該当部分が太字になっているので分かりやすいと思います。


当初、この動画に僕が参画する予定はなかったのですが、あるくおすし氏から「映像で使う詩を作ってくれ」と頼まれて制作したという経緯があります。アカウント設立当初に招待はされていたものの、以前から僕は音声や映像の技術ではここの人たちに貢献できないことを憂いていました。率直に言って、僕以外のメンバーはみんな創作技術に長けており、自分はたまたま交友関係があったためにお情けで招待していただいたのだろう、とさえ感じるほどでした。それでも得意な言語表現の分野ならそう簡単には負けないということを自覚するきっかけとなった仕事なので、本当にこの作品には感謝しています。


それでは、ありがとうございました。





おまけ


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