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アニメ「Kanon」第10話を5つの視点から分析する👀

引き続き、アニメ「Kanon」を分析します。本記事で取り上げるのは第10話。第9話以前を分析した記事については、最下の「関連記事」欄をご参照ください!


分析対象


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あらすじ


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【ポイント①】まずは前話までの経緯を振り返る


本話は、<真琴の最期>を描いたエピソードである。

まずは、前話までの流れを簡単に確認しておこう。


第2話第6話

真琴は、第2話のエンディングで初登場した。

第一印象は、①めったやたらと元気で、②やることなすこと子どもっぽい(発想が幼い、意地っ張り、すぐに憎まれ口を叩く etc.)といったところだろうか。名雪やあゆと比べると、<ギャグパート担当>という印象が強かった。

また、<隙あらば祐一にちょっかいを出し、逆襲に遭う。しかしそれでも彼の傍を離れようとしない>……つまりは、③【ツンデレキャラのツン期】的な側面も持ち合わせていた。


第7話

さてここから、<真琴ルート(真琴をヒロインに据えた専用ストーリー)>が始まる


上述の通り、第2話第6話では、<真琴の陽性な部分>ばかりが描いていた。ところが本話では、<陰性な部分>がクローズアップされる

すなわち、真琴の抱える<孤独感>がじっくり描かれるのだ。


そして、「真琴がぴろを歩道橋の上から落とす」「真琴が家出する」といった事件を経て、最終的には、祐一が真琴を連れ戻すことで一件落着となるのだが……この時、祐一や秋子は真琴を「家族」と呼び、温かく迎え入れてやった。

<家族の温かさ>に触れた真琴は名状しがたい感情に襲われる……!


第8話

祐一や秋子から温かく受け入れてもらったことで、真琴が心を開く。【ツンデレキャラのツン期が終わり、デレ期に突入した】というのが一番わかりやすい表現だろう。要するに、祐一に対してデレまくり始めたのだ

と同時に、真琴の衰弱が始まった(箸を落とす暖かく etc.)。


一方、祐一は美汐との出会いをきっかけに真琴の正体が狐だと気づく。彼は当初それを受け入れられないが(否認するが)、最後には認める。

さらに、<真琴が人間の姿を保っていられる時間は残りわずか>と知る。


第9話(前半)

真琴は、引き続きデレ & 衰弱

対する祐一は暗い顔をしている。かと思えば、不自然なほど真琴に優しくふるまう。大いに動揺していることがわかる。


第9話(中盤以降)

真琴が発熱。そして、幼児化(正確には<非-人間化>とでも呼ぶべき現象)が始まった

対する祐一はついに腹をくくる。彼は<この先何があっても取り乱さない。最期の最期まで真琴の傍にいる>と決意して、真琴の世話を始める。


……という経緯を経て、さぁ本話!

<真琴ルート>の最終話である!!


【ポイント②】本話に描かれているのは、【遺される者の準備】である


<1>

さて。<真琴ルート>の最終話たる本話には、一体全体何が描かれているのだろうか?


冒頭申し上げた通り、本話は<真琴の最期>を描いたエピソードだ。

ただし……【祐一ら遺される者が、<真琴の喪失>を受け入れるための準備をするエピソード】と言う方がより正確だろう。


<2>

本話冒頭、祐一は美汐から助言を受ける「最期の時が迫っている。真琴が望んでいたことがあるなら叶えてあげてほしい」


かくして彼は、<真琴が望んでいたと思われること>を1つずつこなしていく。そして最後に2人だけの結婚式を執り行うのだが……さて、注目すべきはその直後の祐一のセリフである。

すなわち、「これで真琴の願いは成就したと信じた」


そう、祐一は<信じた>と言う!

最早、真琴は言葉を話せない。理性や自我があるのかも怪しい。したがって、彼女の願いが何なのか確かめる術はない。そして、彼女が満足したか確認することもできない。

いまの祐一にできるのは、【<真琴が望んでいたと思われること>をこなし、<真琴は満足したはずだ。これで、心置きなくこの世を去ることができるだろう>と自分を納得させることだけ】なのだ。


要するに、身も蓋もない言い方になるが……本話の祐一らの行動は、【真琴のためのもの】というよりも、【祐一らが<真琴は満足したはずだ。これで、心置きなくこの世を去ることができるだろう>と自らを納得させるためのもの】であり、これは【<真琴の喪失>を受け入れるための準備】なのである。


<3>

例えば、<祐一が真琴を連れてものみの丘に向かう → 途中、名雪に会いに行く>というシーンもそうだ。


祐一は、なぜ名雪に会いに行ったのか?

真琴が名雪と会いたがっているから……ではない。繰り返しになるが、いまとなっては真琴の意思を確認する術はないのだから。


この行動は、【このまま真琴が消えてしまっては、「せめてもう1度会いたかった!」と名雪が悲しむに違いない。名雪が真琴とお別れする時間を作ってやろう】という祐一の配慮に基づくものだろう。

つまり、<名雪 = 遺される者>のための行動なのである。


<4>

はて。本話後半、いよいよ最期の時がきたわけだが……その後、祐一らはどうなったのだろうか?

悲嘆に暮れ、絶望しているのか?それとも……?


ご注目いただきたいのは、<真琴が消えた後、祐一と美汐が屋上で言葉を交わすシーン>である。

この時、2人は談笑している(!)。

かつて美汐が友人(正体は狐)を喪った際、悲しみのあまり他人と関わるのを止めてしまったのとは大違いだ。


無論、祐一らだって深い悲しみの中にいるに違いない。だがしかし、彼らは悲しみを抱えつつも立ち止まることなく、前を向いているのだ。

これすべて、<準備>のおかげだと思われる。


<5>

ところで……美汐曰く、人間に化けた狐は<奇跡>の力が失われる時に発熱するそうだ。

つまり、<発熱 = 最期の時>


だが、真琴は違った。

彼女は第9話で発熱したものの、その後も数日に渡って人間の姿を保ち続けた。すなわち、【真琴は<奇跡>の後に、もう1度<奇跡>を起こした】というわけだ。


そして……1度目の<奇跡>は、【大好きな祐一に会いたい。一緒にいたい】という真琴自身の欲望、言わば利己的な願いに基づくものだった。


では、2度目の<奇跡>は?

私はこれ、【祐一ら遺される者のショックを少しでも和らげたい。そのためにお別れの時間がほしい。自我を失ってもいい。理性を失ってもいい。でもこの生命だけはあと数日長続きして!】という真琴の利他的な願いが実現したものだったのではないかと思うのだが……皆さんはどう思われますか?


【ポイント③】<祐一と美汐の会話シーン>に見る心境の変化


<1>

本話には、<祐一と美汐の会話シーン>が2度登場する

・1:序盤、祐一が「真琴に会ってやってほしい」と頼むシーン

・2:終盤、すべてが終わった後に屋上で話すシーン


<2>

まずは、序盤の【祐一が「真琴に会ってやってほしい」と頼むシーン】に注目しよう。


このシーンの2人は、公園内の遊歩道のような場所に立ち留まって会話をしている。

・特徴1:道の両脇には木製の柵がある。高さは50cmほどと低い。また丸太を組み合わせたもので、密閉感はない

特徴2:少し離れたところには林やビル群が見える。しかし、2人の傍には何もない。ただただ雪原が広がっている


要するに、圧迫感皆無の開けた場所にいるのだ。


<3>

で、このシーンなのだが……これ、制作者は第9話後半の<祐一と美汐の会話シーン>を意識して描いたものと思われる。

第9話後半、2人はまるで監獄のような閉鎖的な一本道で会話をしていた。


そう、同じ一本道でも大違いなのだ。真逆と言っていい。


そしてこの違いが何に起因するものか考えてみると……おそらくはこれ、<美汐の心境の変化>を示唆しているのだろう。


第9話中盤、祐一は<何が起きようと受け止める。最期の最期まで真琴と共にいる>と覚悟を決めた。

そして、そんな彼と言葉を交わす内に、美汐の気持ちにも変化が生まれつつあるのだ。ずばり、「もう1度、他人と関わってみようかな」「もう1度、狐(= 真琴)と関わってみようかな」という気持ちが芽生えつつあるのだと思われる。

かくしてこの後、美汐は真琴と会うことを了承した。


<4>

続いては終盤、すべてが終わった後に屋上で話すシーン】に注目しよう。


このシーンの舞台は、学校の屋上だ。

そして、<屋上で祐一と美汐が会話する>といえば……そう!こちらは第8話に対応するシーンがある。


<5>

第8話の<2人が屋上で言葉を交わすシーン>は、独特の映像で描かれている。

・独特1:画面内のすべてが傾いている(カメラが斜め上から祐一らを映しているのだ)

・独特2:祐一と美汐が異常なほど離れたところに立って会話をしている(お互いの声が聞こえているのか心配になるほどである)

・独特3:常に逆光で、2人の顔には濃い影が落ちている

そう、いかにも不穏な感じなのだ。


それに対しては本話は……

・本話1:画面は傾いていない(カメラは祐一らを真横・真っ正面から捉えている)

・本話2:祐一と美汐はすぐ傍に立って会話をしている

・本話32人の顔には柔らかい光が当たっている

第8話の真逆と言っていいだろう。


ところで……第8話といえば、祐一が最も不安定だった時期だ。一方、本話終盤の祐一は深い悲しみを抱えつつも落ち着いている

この差が、映像に反映されているのだろう。


【ポイント④】異世界に踏み入る


<1>

祐一と真琴がものみの丘を登る途中、チラッと鳥居が映る。そして、鳥居の傍に狐(狛犬ではなくて狐)が鎮座しているのも見える。


これ、2人が<狐(稲荷大明神。いわゆる「お稲荷さま」)の支配するエリア = 我々の常識が通じない異世界>に踏み入ったという合図だろう。

実際、この直後2人は、<冬山にも関わらず頂上付近には雪がなかった。そこには春の草原が広がっていた>という奇跡を体験する。


<2>

ちなみに……鳥居と狐が画面に映っていたのはわずか1秒間ほどだ。見逃してしまった鑑賞者もいるだろう。

「Kanon」って、一瞬たりとも息つく間のない密な作品ですよねー!(そこがいい!!)


【ポイント⑤】秋子の愛、そして涙


<1>

最後に、秋子について触れておきたい。

本話の秋子は出番こそ少ないものの、私たち鑑賞者の涙腺を大いに刺激する役割を担っている。


<2>

まずは冒頭、祐一が外出するシーン。

この時、祐一に代わって秋子が真琴の面倒を見ることになる

---

祐一は言う「忙しいのにすみません」。

すると秋子は「私が遊びたいのよ、真琴と」。

そして、すっかり幼児化した(というか、ペットの犬や猫のようになっている)真琴に対してこう言うのだ「ねぇ、真琴。お母さんと一緒に遊びましょうね」

---


そう、「お母さん」!この母性溢れるセリフよ!

秋子は、真琴を本当の娘のようにかわいく思っているのだろう。


<3>

そして、祐一と真琴がものみの丘へ向かうシーン。

家を出る直前、2人は廊下で秋子に遭遇する

---

祐一が言った「ちょっと、これから2人で出かけてきます」。

対する秋子は「学校サボっておいて、不良ねぇ」。

祐一が笑う「そうですねぇ」。

秋子は「冗談よ。美味しい晩ご飯作って待ってるわね」。

すると真琴が「あうわぁ。あぅ」。秋子には、真琴が何を言いたいのかわからない。

祐一は「じゃあ行ってきます」と玄関へ向かった。

……この時、秋子は「ちょっと待って」という風に右手を伸ばす。しかし、そのまま見送る「いってらっしゃい」。

そして声を押し殺して涙を流した。

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祐一と話す内に、そして真琴の言葉にならぬ言葉を聞いたことで、秋子は直観したのだろう。これが真琴との永遠の別れになる、と。


だが秋子は、2人を引き留めることはしなかった。彼らの前では涙を流さなかった。彼女は堪えた。

この時の秋子の気持ちを想うと……嗚呼、じつに泣ける!



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(担当:三葉)

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