「2つの大切なもの」の間で、主人公を板挟みにしてやろう!!|『汚名』に学ぶテクニック
名作映画を研究して、創作に活かそう!
本記事では、「汚名」に【「主人公が板挟みになる物語」の描き方】を学びます。
※「汚名」については、別記事でも研究しています。詳細は、記事末尾の「関連記事」欄をご参照ください。
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愛と義務の葛藤
本記事で取り扱うのは、「『汚名』のテーマ」です。
「汚名」の監督ヒッチコックは、以下のように言っています。
『汚名』は愛と義務の葛藤という古いテーマを描いた物語だ。ケイリー・グラントは自己の任務を果たすために愛する女を他の男のベッドに送らなければならない。こんなに悲痛で皮肉な話もない。
※ヒッチコック、トリュフォー「定本 映画術」より引用
そう、「汚名」のテーマは「愛と義務の葛藤」です。
「汚名」では、「愛と義務の葛藤」はどのように描かれているのか?
「汚名」のストーリーをご紹介しつつ、「愛と義務の葛藤」がどのように描かれているか詳しくご説明しましょう。
<ざっくりストーリー①>
1:第2次世界大戦後のアメリカ。アリシア(若い女性)の父が「ナチスのスパイだった」という理由で有罪になる。
2:アリシアはショック。自暴自棄になり、酒と男遊びに溺れる。
3:ある日デヴリン(アメリカ政府情報機関の捜査官)が、アリシアに近づき、捜査協力を要請する。デヴリンは「きみのお父さんの罪滅ぼしになるぞ」と説得。アリシアは引き受ける(この時点では、2人とも任務の詳細を知らない)。
4:2人はブラジルに移動。すぐに恋に落ちる(幸せそうなアリシアがじつにかわいい!)。
5:情報機関が、デヴリンに言った「アリシアに伝えてくれ。『ナチスの残党と思われるセバスチャンという男をたぶらかし、情報を収集せよ』と」。
さてここから、「愛と義務の葛藤」が始まります。
まず、任務の内容を知ったデヴリンが強いショックを受ける。「愛する女性にそんなことをさせられるか!」というわけですね。
しかし彼は祖国のために、グッと恋心を抑える。そして平静を装い、アリシアに任務を伝えます(愛 < 義務)。
アリシアは、デヴリンの平然とした態度にショックを受けた「本当に私を愛してくれているの!?」。彼女は取り乱す。しかしデヴリンは、それでも感情を表に出しません(愛 < 義務)。
かくしてアリシアは、半ば自棄を起こしつつ任務に入った。
<ざっくりストーリー②>
6:アリシアがセバスチャンに接近。すぐに気に入られる。彼女はどんどん情報を収集していく。
7:任務が順調に進む一方、アリシアとデヴリンの関係はグングン悪化していく。
アリシアが、デヴリンに報告「セバスチャンとセックスをしたわ」。さらに後日、アリシアが尋ねた「セバスチャンから結婚を申し込まれたわ。私、どうすればいい?」。
無論彼女は、デヴリンに優しい言葉をかけてほしいのです。「任務なんて止めちまえ!」「オレと結婚しよう」と言ってほしいに違いない。
しかし……デヴリンは相変わらず自分の気持ちを押し殺す(愛 < 義務)。
アリシアはそのたびに傷つき、自棄を起こし、おそらくは「女のプライド」のようなものもあって突き進んでいく。すなわち彼女は、任務遂行のためにセバスチャンと結婚してしまうのです。
<ざっくりストーリー③>
8:ある日、ひょんなことからセバスチャンが気づいた「アリシアはアメリカのスパイだ!」。
9:セバスチャンは母(セバスチャン以上の悪党)に相談。2人は、アリシアのコーヒーに毎日少しずつ毒薬を混入することで、アリシアを始末しようと企む。
10:アリシアは毒薬入りコーヒーを飲み続け、体調を崩す。間もなく寝たきりになってしまう。
11:アリシアからの連絡が途絶えたことで、デヴリンは不安を覚える。彼はセバスチャン邸に侵入。そして衰弱しきったアリシアを発見する。デヴリンは改めてアリシアに愛を告白(「きみを愛している」「これまで本当にすまなかった!」)。アリシアは嬉しそうに微笑んだ。そしてデヴリンはアリシアを抱きかかえ、屋敷から脱出した。
つまり、それまでずっと自分の気持ちを抑えていたデヴリンが愛を告げ、2人は無事脱出。かくしてハッピーエンド♡……というわけです。
主人公を板挟みにして葛藤させよう!
「愛と義務の葛藤」を描いた作品は少なくありません。
例えば映画「カサブランカ」。おそらくこれは、世界で最もよく知られた「愛と義務の葛藤」の物語でしょう。
※Memo:主人公リックは「愛」と「義務(正義、世界平和)」の間で葛藤し、最後は「義務」を優先する。詳細はこちらの記事で。
あるいは、わが国のヤクザ映画界にも「愛と義務の葛藤」を描いた作品が多数存在します。
※Memo:主人公(高倉健さんや菅原文太さん演じるキャラ)が、惚れた女への「愛」と、組や親分への「義務(忠誠心)」の間で葛藤し、最後は「義務」を優先する。いわゆる「義理と人情の板挟み」というヤツです。
また、
▶ 「『愛』と『友情』の葛藤」を描いた作品(主人公が愛と友情のいずれを取るかで苦悩する)
▶ 「『家庭』と『仕事』の葛藤」を描いた作品(主人公が家庭と仕事の間で右往左往する)
▶ 「『嫁』と『姑』の葛藤」を描いた作品(主人公が嫁と姑のいずれを優先するかで悩む)
……なども、「『愛と義務の葛藤』と同タイプの物語」と言えるでしょう。つまり、「同じくらい大切な2つのものの間で、主人公が板挟みになる物語」です。
そして……このタイプの物語は、鑑賞者・読者を虜にしやすいものです!
多くの鑑賞者・読者は、苦悩する主人公や主要キャラに同情心を抱くでしょう。そして、息を詰めて彼らの言動を見つめる。最終的にどのような決断を下すのか気になり、画面に釘づけになる!
したがって、ご自身の作品について「もう少し盛り上がりがほしいなぁ。何かいいアイデアはないものか?」と思った時には、主人公を板挟みにしてやるといいかもしれません。
「2つの大切なもの」の間で、主人公を苦悩させてやりましょう!
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