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まともな世界に転生させろ!!|『アニー・ホール』(3)

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テーマ発表!!


 第1回第2回に引き続き、映画「アニー・ホール」をベースに新しい物語を妄想します。

※「アニー・ホール」のストーリーなどについては、第1回の記事をご参照ください。


妄想開始!


嘉村 「アニー・ホール」は、女性を「道具」としか考えられぬダメダメ中年男が、失恋を通じて成長する物語ですが、「設定を思いっきり変えても面白くなるのでは?」ということで……前回に引き続き、一体どんな物語にするといいかディスカッションしてまいりましょう!

三葉 承知しました。

嘉村 前回ご紹介したのは、「『アニー・ホール』 ~『私は男を甘やかしたい』編」でした。


案②


三葉 まずは、「アニー・ホール」風の物語を作る時に注意すべきポイントを確認しておきましょう。


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三葉 ……ですね(より詳しくは第1回の記事で)。

嘉村 ふむふむ。

三葉 さてご覧の通り、「アニー・ホール」の主人公は「女性を『道具』としか考えられぬダメダメ男」です。また、前回ご紹介した「案①」の主人公は、「男性を『道具』としか考えられぬダメ女」でした。

嘉村 ええ。

三葉 同様に、「患者を『道具』としか考えられぬダメダメ医師」とか、「生徒を『道具』としか考えられぬクソ教師」とか、「部下を『道具』としか考えられぬブラック上司」とか、いろいろなパターンが考え得ると思うのですが……。

嘉村 なるほど。

三葉 今回は、もっと飛躍してみましょう。すなわち「案②」は……「『アニー・ホール』 ~『まともな世界に転生させろ!』編」です。


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嘉村 転生……つまり、「異世界転生もの」ですね。


三葉 ええ、その通りです。

嘉村 ふむ。

三葉 「異世界転生もの」には、往々にして、主人公が神様に注文をつけるシーンがありますよね。「転生にあたって、○○という能力を与えてほしい」とか、「××な世界に転生させてほしい」とか。

嘉村 あー、見かけますね。

三葉 ああいうのって……結構アレだと思うんですよね。

嘉村 ん?どういうことです?

三葉 ホラ、そもそも私たちは、物心ついた時にはすでに「いまの自分の姿」で、「この世界」に存在するものでしょ?言うまでもありませんが……私たちは「どんな顔で生まれるか」「どんな両親のもとに生まれるか」「どの国・どの時代に生まれるか」などを決めることはできない。

嘉村 ふむ。

三葉 ところが、ですよ。「異世界転生もの」の主人公たちは、平然と「転生後の自分自身」や「転生先(世界、時代)」についてリクエストを出す!……これって、かなり不遜なことだと思うんですよね。

嘉村 あー……。

三葉 だって、それは本来「神の領域」に属することじゃないですか!人間が口出ししていいことではないはずです。

嘉村 まぁ、フィクションですからね……。

三葉 ええ、無論そうなんですけどね。とはいえ、「『異世界転生もの』の主人公たちが、平気な顔で『神の領域』に足を突っ込んでいる」というのは、もう少し注目されてもいいと思うんですよ。つまり、ここに着目した作品があってもいいでしょう。

嘉村 ほぉ。

三葉 そこで……「案②」!主人公は、トラックにはねられて死亡。気がつくと、目の前に女神がいました。女神曰く、誤って殺してしまった。大変申し訳ない。ついては、転生するにあたって、何か要望はあるだろうか?お詫びと言ってはなんだが、できる限りのリクエストには応えたいと思っている、とのこと。

嘉村 ふむ。オーソドックスなオープニングですね。

三葉 主人公は考える。彼は、アニメやラノベの「異世界転生もの」が大好きでした。「オレもチート能力を持って転生してぇなー。そして、ドラゴンをドシドシ狩ったりしてさ。オレの強さには魔王も平伏すわけよ。その一方で無知な現地人を教え導き、彼らから尊敬を得る。さらにかわいい女の子に言い寄られて……うへへ。ハーレムを築いちゃったりしてね!って、いやいや。浮気はいかんぞ、浮気は。どれだけ言い寄られても、誠実でなければならん。オレはエミリアたんのような女性と……無論レムも気になるが……すごく気になるが……オレは一途なんだ!エミリアに貞操を誓うぜ!」……なんて思っていた。


三葉 かくして、主人公はリクエストしました。すなわち……「チート能力」「剣」「魔法」「ドラゴン」「中世ヨーロッパ風の街並み」などなど。

嘉村 ふむ。

三葉 そして転生。主人公は歓喜する。おおっ!リクエスト通りだ!オレ、チート能力者になってるじゃん!やっほーい!主人公は仲間を見つけ、村人を教え導き、ドラゴンを討伐し、魔王を追い詰め……と、八面六臂の大活躍!主人公の夢は叶ったのだ!……が、彼は次第に虚しさを感じるようになりました。

嘉村 ほぉ……。

三葉 彼の中でドンドン虚無感が膨らみ、やがて限界を迎えた。ある日、主人公は女神を呼び出しました「おーい」。女神が顔を出す「んー?どしたー?」。

嘉村 ……随分ノリの軽い女神ですね。

三葉 「この素晴らしい世界に祝福を!」のアクアのような女神をご想像ください。


嘉村 なるほど。

三葉 主人公は続ける「あのさぁ……オレ、無敵すぎじゃね?」「えっ?だってチート能力がほしいって言ったじゃない」「いや、そうなんだけどさ」「うん」「たった一太刀でドラゴン50匹を吹き飛ばす力って……どうなのよ?」

嘉村 確かに無敵すぎる……。

三葉 「それに、現地人はバカばっかりだし……」「バカばっかり?」「そうだよ。だってさ、この世界の人たちはコップを知らないんだぜ?彼らは飲み物を手ですくって飲み、『ホットドリンクは手がただれるのぉ。熱い熱い』とか、『コールドドリンクは手がかじかむのぉ。寒い寒い』とか言ってるんだよ?」「そうね」「で、オレは『コップというものがありますよ』と提案したわけよ。見るに見かねてね」「うん」「そしたらさ、オレ、途端に祀り上げられたからね。みんながオレを拝んじゃってさ」。

嘉村 うーむ……。

三葉 女神は屈託のない笑顔を浮かべた「よかったじゃん!それが望みだったんでしょ?」「えーと……何つーかさ、ほら、モノには限度っつーものがあるじゃん?」「限度?」。

嘉村 あー……「周囲があまりにも低レベルだから、アホくさくてやっていられない」というわけですね。

三葉 そうですね。

嘉村 ふむ。

三葉 主人公は頭を抱える「確かにチート能力を要望したけどさぁ。ホラ、空気を読んでほしかったというか……」「いやいやいや。女神に空気を読めとか無理っしょ。草生えるわ!」。女神が笑う。なるほど。言われてみればもっともである。これはオレの過失だ。主人公は頭を下げました「すまん!もう一度別の世界でやり直させてくれ」。女神がひっくり返る「えーっ!」。

嘉村 ははぁ。

三葉 しかし、女神はいいヤツでした。「しょうがないなぁ」とぼやき、聞き入れてくれた。「じゃあ、改めてリクエストを聞くわね」。主人公は言った「もうちょっと噛み応えがほしいんだよね。ほら、苦労やピンチがあるからこそ喜びも大きくなるわけでさ」「ふーん。人間って面倒くさいのねぇ」。

嘉村 ふむふむ。

三葉 そして……主人公は2度目の転生を果たしました!

嘉村 おー。

三葉 今度こそオレの理想の世界になっているはずだ。よっしゃ!異世界生活を満喫するぞー!……が、しばらくして主人公は愕然としました。

嘉村 また何か問題が……?

三葉 一見すると、何も問題はないのです。主人公は、引き続きチート能力を持っている。圧倒的に強く、そして賢い。一方で、彼以外のキャラはしっかり底上げされていました。すべては、主人公のリクエスト通り!……に見えたのですが。問題は、「主人公以外のキャラの底上げの方向」です。

嘉村 方向……?

三葉 ええ。「底上げ」と一口に言っても、様々な方向があり得ますよね。例えば、攻撃力をアップする。あるいは、ちょっとやそっとでは死なぬように耐久力を増やす。もしくは、魔法量を強化する。

嘉村 ふむふむ。

三葉 主人公が強くなりすぎぬように補正する方法はいろいろあると思うのですが……女神が採用したのは、「学習能力の強化」でした。

嘉村 学習能力……。

三葉 つまりですね、冒険者から村人、ドラゴンや魔王まで、誰もが猛烈なスピードで成長していくんですよ!

嘉村 ほぉ。

三葉 例えば、ドラゴンや魔王は主人公と戦う中でグングン学習し、猛烈に強くなっていきました。また、元々幼稚園レベルの知能しか持っていなかった村人たちも、あっという間に小学校、中学校と駆け上がっていった。

嘉村 「HUNTER×HUNTER」のキメラアントみたいですね。


三葉 彼らが主人公に追いつき、そして追い抜くまでそう時間はかかりませんでした。いまや主人公は、「チート能力者」でも「世界最強の勇者」でもありません。ただの「昔はすごかった人」です。

嘉村 ……。

三葉 主人公の周りの者は、みな気まずそうです。主人公は物陰でこっそり泣いた。

嘉村 メチャクチャかわいそうじゃないですか……。

三葉 主人公は、再び女神を呼び出しました「ちょっと!」。女神が登場「ヤッホー。元気ぃ?」「いや、元気っつーか……この世界、インフレしすぎだよ!」。


三葉 主人公は、もう一度別世界に転生させてほしいと頼みました。気のいい女神のことです。今回も受け入れてくれるだろうと思いきや……彼女はヒステリックに叫んだ「ハァ?冗談じゃないわよ!」。予想外の反応。主人公はたじろぐ。そして思う。もしかして生理だったか?タイミングを見誤ったかな……。

嘉村 女神に生理ってあるんですかね?

三葉 さぁ?

嘉村 っていうか、生理とかそういうことではなくて、何度も転生を依頼するその身勝手さに問題があると思うんですが……主人公はそうは考えていないんですね。

三葉 そう!そこですよ!

嘉村 ふむ。

三葉 冒頭申し上げた通り……本来私たちは「どんな顔で生まれるか」「どんな両親のもとに生まれるか」「どの国・どの時代に生まれるか」などを決定する権利を持っていません。それは、「神の領域」に属することです。

嘉村 ふむふむ。

三葉 仮に「なんでオレはこんなにブサイクなんだ!」「なんで私はこんな場所に生まれたのよ!」などと不満があったとしても、どうしようもない。リセットすることはできません。

嘉村 ええ。

三葉 マンガ「ピーナッツ」に、「配られたカードで勝負するっきゃないのさ」という名言がありますが……まさにこれですね!


三葉 私たちは、与えられた「自分」、与えられた「環境」で精一杯やるしかない。

嘉村 確かに。

三葉 ところが、ですよ!「案②」の主人公は、これをすっかり忘れている!彼は、やれ周囲のレベルが低すぎるだの、やれ周囲のインフレが激しすぎるだの、文句を並べてばかり。テメェもちっとは努力しやがれってんですよ!

嘉村 うーむ……なるほど。

三葉 ところで……「アニー・ホール」の主人公にとって、「女性」とは「『虚しさや不安を紛らわしたい』という欲望を満たすための『道具』」に過ぎませんでした。また、前回ご紹介した「案①」の主人公の場合、「男性」は「『かわいい男の子に甘えられたい/かわいい男の子を甘やかしたい』という欲望を満たす『道具』」に過ぎなかった。

嘉村 ふむふむ。

三葉 同様に……「案②」の主人公にとって、「異世界」とは「『アニメやラノベのような異世界生活を満喫したい』という欲望を満たすための『道具』」に過ぎないんですよね。

嘉村 あー、確かに。

三葉 本当は、あの世界にもこの世界にも、「その世界ならではの幸福や楽しみ」があるはずなのに……主人公はそれに気づいていない!だから、容赦なくリセットを要望する。彼は、自分の欲望を満たすことしか考えていない自己中心的なクソ野郎なのです!

嘉村 なるほど。

三葉 さて、話を戻しましょう。主人公は、不機嫌な女神をどうにかなだめた。女神は「マジでこれが最後だからね!」と言って、リクエストを問うた。

嘉村 なんだかんだ、お人よしの女神ですね。

三葉 主人公は考える。「チート能力」やら「魔王討伐」やらは、もういい。もううんざりだ!そうではなくて……うん!スローライフだ!素敵な女の子と知り合い、恋に落ち、のんびり暮らしたい!

嘉村 「異世界転生もの」の中でも、特に「異世界スローライフ」と呼ばれる方向ですね。

三葉 かくして、主人公は3度目の転生を果たしました!

嘉村 ふむ。

三葉 彼は、緑豊かな小さな村の宿屋に泊まり、そこで宿屋の1人娘と恋に落ちた。かわいらしく、気立てもいい少女です。主人公は湖のほとりで少女と語り合い、幸福な日々を過ごしました。2人は村人公認の仲。やがて彼女と結婚し、村の一員として穏やかな人生を送る。素晴らしいよなぁ……なんて思った時期もありました!

嘉村 ……ん?

三葉 主人公は、確かに幸福でした。しかし半年、1年と経つ内にイライラが募った。というのも、いくら何でも刺激が足りないのです。彼は、現代日本の出身です。スマホやらゲームやらに囲まれて育った。そんな彼にとって……確かに、森や湖は美しい。村人は誰もが親切。そして恋人はかわいい。しかし……嗚呼、刺激が足りぬ!いまの生活を10年、20年、30年と続けるかと思うと、ゾッとする!主人公は耐えかねた。かくして……。

嘉村 まさか……。

三葉 ええ、そのまさかですね。「あの……女神さん」「……」「あのー……」「ハイハイ。わかっていますよ。この世界もダメなのね?」「……ホント、すみません」。女神が嘆息する「もう慣れっこよ」。

嘉村 うーむ。今度こそのんびりした環境で心穏やかに過ごすかと思いきや……やはり主人公にとっては、「異世界」は「『アニメやラノベのような異世界生活を満喫したい』という欲望を満たすための『道具』」に過ぎないんですね……。

三葉 そうですね。したがって、「どうも理想と違うなぁ」と感じ始めるともうダメ。我慢できぬ。すぐにリセットしたくなってしまう。

嘉村 ふむふむ。

三葉 さて……先ほどの続きです。女神が言った「とはいえさ、あんた、これで3度目よ。いくら何でもひどすぎ!『仏の顔も3度まで』って言うでしょ」「はぁ……」「ってことでね、天界からの命令です。あんた、しばらく私の助手をしなさい」「じょ、助手!?」「そうよ。下界の管理とか、よその神様との付き合いとか結構忙しいのよ。でね、私の助手をしながらいろいろな世界を覗いてみなさいよ。じっくり検討した上で、転生する世界や、転生時にほしい能力をリクエストするのね」。主人公はうなずく。

嘉村 なるほど。

三葉 こうして、主人公は女神の助手になりました。毎日あちこちの世界をチェックし、時には「奇跡」を起こしたり、あるいは「神罰」を下したりする。

嘉村 ふむ。

三葉 そんな生活をしばらく続け……ある日。主人公は、3度目に転生した世界を偶然覗き込みました。そして……あっ、あそこにいるのは!そう、将来を誓い合ったあの娘でした。彼女は別の男と結婚し、子どもを生んでいた。

嘉村 ほぉ。

三葉 女神の力で、主人公に関する記憶はすべて消去されています。娘も、村人たちも、主人公のことは完全に忘れている。主人公は、幸せそうな娘を見て少し寂しく思った。そして考えた「次に転生するなら……多少退屈だろうとも、またああいう世界がいいかなぁ」。……で、物語は幕を閉じます。

嘉村 ふむふむ。

三葉 上述の通り、主人公にとって「異世界」とは、「『アニメやラノベのような異世界生活を満喫したい』という欲望を満たすための『道具』」に過ぎませんでした。しかしラストシーンでは、「かつて『欲を満たせない』という理由で捨てた世界」を高評価しているんですよね。

嘉村 確かに。

三葉 つまり……彼は、「アニメやラノベのような異世界生活を満喫したい」という欲望を満たせるか否かを問わず、世界に好意を抱けるようになりつつある。その意味で、「アニー・ホール」の主人公同様、「案②」の主人公も人間的な「成長」を始めたと言えるでしょう。

嘉村 なるほど。

三葉 以上、「『アニー・ホール』をリスペクトした物語」のアイデアをご紹介しました!


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 「アニー・ホール」の研究はこれで終了です。ありがとうございました。

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 最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。

(担当:三葉)

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