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悪人だけど憎めないヤツ!!|『汚名』に学ぶテクニック

名作映画を研究して、創作に活かそう!

本記事では、「汚名」に【「悪人ながらも憎めないキャラ」の描き方】を学びます。

※「汚名」については、別記事でも研究しています。詳細は、記事末尾の「関連記事」欄をご参照ください。

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悪人らしからぬ性格・態度」を持った悪人


本記事では、主要キャラの1人「アレクサンダー・セバスチャン」について考察します。


セバスチャンは、本作の悪役です。彼はナチスの残党。そして作中、アリシア(本作のヒロイン)を毒殺しようとする。まったくの悪人です。

が、しかし。彼は単なる悪人ではありません。じつは作中では、彼の「悪人らしからぬ性格・態度」が繰り返し描かれているのです。

具体的にどのように描かれているか、ご紹介しましょう。


①セバスチャンは「かわいそうなヤツ」


本作の前半部分のあらすじをざっくりまとめると……

1:主人公はアリシア(若い女性)

2:アリシアはアメリカ政府の情報機関から依頼を受け、女スパイになる。

3:アリシアがセバスチャン(ナチスの残党)に接近する。

4:アリシアはセバスチャンをたぶらかし、少しずつ情報を収集していく。


つまりセバスチャンは、女スパイにたぶらかされる役なのです。

しかし彼は、アリシアが自分を騙しているだなんて露ほども考えません。アリシアとの出会いに運命を感じ、アリシアを真剣に愛する。そして結婚を申し込む。

セバスチャンの母が「財産目当てでは!?」とアリシアに疑いの目を向けた時には、「失敬な!彼女はそんな人ではありません!」と激昂した。


かくして、多くの鑑賞者は彼に同情心を抱くでしょう。「確かに悪人だけど……なんかかわいそうになってくるなぁ……」というわけです。


②セバスチャンは「愛の人」


上述の通り、セバスチャンはアリシアを愛しています。

じつは本作の主人公(デヴリン)もアリシアを愛しており、エンディングではアリシアとデヴリンがくっついてハッピーエンドを迎えるのですが……少なくとも中盤までは、セバスチャンの方がアリシアを愛しているように見える(というか、デヴリンが薄情な男に見える)。

通常、私たちは「誰かを深く愛する者」に好意を持つものです。つまり鑑賞者の多くは、(少なくとも中盤まではデヴリンよりも)セバスチャンに好感を抱くというわけです。


ところで……トリュフォー(映画監督、映画批評家)が、セバスチャンについてこんなことを言っています。

クロード・レインズが小男であること、長身のイングリッド・バーグマンよりもずっと背が低い男であることもまた、重要な心理的要因になっているのではないでしょうか。自分よりもずっと背の高い女に恋する小さな男というのは、それだけですでにとても感動的です。

※クロード・レインズ:セバスチャンを演じた俳優。身長169cm(ハリウッド俳優の中ではかなり小柄な方)。

※イングリッド・バーグマン:アリシアを演じた女優。身長175cm。

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※ヒッチコック、トリュフォー「定本 映画術」より引用


初めてこの文章を読んだ時、私は「感動的」の意味が理解できませんでした。トリュフォーは、どのような意味で「感動的」という言葉を使っているのか?

そしてアレコレ考えてみたのですが……一般論として「女性の方が背の高いカップル」は見栄えのいいものではありません。「まぁ、みっともない」と陰口を叩くヤツもいるでしょう。特に、セバスチャンが属する「因習的な世界( = 昔ながらの価値観に囚われている世界)」では、この傾向が強いはず。

ところが、です。セバスチャンはアリシアを愛し、結婚した。「セバスチャンの愛はそれだけ深いものなのだ」と言えるでしょう。

おそらくトリュフォーは、セバスチャンの愛の深さを「感動的」と表現したのではないかと思います。


要するにセバスチャンは、アリシアを深く、深く、深く愛している(相手はスパイなのに……)。まさに「愛の人」というわけですね。


まとめ


以上、セバスチャンの「悪人らしからぬ性格・態度」をご紹介してきました。

ご覧の通り、セバスチャンは「悪人ながらも憎めないキャラ」。少なからぬ鑑賞者が彼に同情したり、共感したり、あるいは親しみを感じたりするでしょう。


トリュフォーもこんな風に言っています。

(セバスチャンは)おそらくは最もヒッチコック的な<悪役>ではないかと思うのです。つまり、きわめて人間的な悪役なのです。

※前掲書より引用


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▶ 「汚名」の「三幕構成」分析は、こちらの記事でどうぞ😁 → 【三幕構成の実例】汚名


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(担当:三葉)

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