注意喚起

　職場で、昼食後に給湯室で歯を磨くことにしている。他にもそういう人があるから、時間をずらして行く。恐らく、昼に給湯室を使うのは自分が最後だろう。
　その際に、どうもガスの元栓が気になる。いつも開いたままになっている。小学校の時分、同じクラスにガス爆発に遭った子がいたから、元栓の開き放しが怖くていけない。だからその都度占めるのだけれど、他の社員はそんなことにはお構いなしで、いつも開け放している。元栓に対する意識が低すぎるように思う。

　ある時、元栓付近に「使った後は元栓を締めてください」と書いた付箋が貼られていた。
　管理部のフグ田さんが貼ったものだろうが、元栓を気にしない者に注意を促すのに、元栓付近に小さな貼り紙をしたって効果があるとは思えない。
　それは、最初に開く者は気がつくだろう。しかし何しろ元栓フリー思考者だから、使い終わる時点では貼り紙のことなど忘れている。それで開いたままにして去っていく。
　そうして次に使う者もやっぱり元栓フリー思考者だ。しかも最初から開いているのだから、そもそも貼り紙自体に気付かないかも知れない。
　以降その繰り返しで、ずっと開きっ放しになっているのを最後に自分が締めるのでは、どうもつまらない。貼り紙をした意味がない。
どうせだったら、誰もが必ず見る場所に貼るべきだろうと、給湯ボタンの上に移してやった。
　給湯ボタンなら、元栓意識の高低によらず、誰もが必ず目にする場所である。使い始めと使い終わりに必ず操作するものだから、「はっ、元栓を閉めなければ」と気付くに違いない。全体、人を動かそうと思うのなら気付かせて忘れさせない工夫が必要だろう。
　気付いて尚、閉めない者があるとすれば、それは人間性の問題だから、そこまで自分は知らない。

　翌日歯を磨きに行くと、付箋が元の位置に戻っていた。そうして元栓は開いたままになっている。
　一体、何がしたいものだか、甚だ判然しない。