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辻村深月「傲慢と善良」

 ちょっと前に猛烈に読みたくなって、ジュンク堂をうろうろ探し回って買って読んだ本。
 2人の主人公は、女性も男性も、婚活をしている。結婚式の前に女性は失踪し、男性は女性の手がかりを辿る。
 私は今まで、恋人がいるってことも、結婚のことも何一つ考えてこなかった。だから考えたくてこの本を読みたくなったのだな、と、読了してから思った。
 善良故の傲慢さ、自分の価値観を振り回して他者を傷つけること、善良さと鈍感さに相通づるもの。女性が仕事を辞めてから東北で写真を洗うボランティアを始めたことは、この物語を一気にファンタジーにしたし、青い憧れが詰まったラストの様にも思う。だから、自分とは違う、工芸品のような世界として辻村さんの創り出す世界を愛でることができるのかもしれない。あまりにも地続きでは苦いだけの読書体験になってしまうから。
 私も人に点数をつけたり、つけられたりしてきたな…と思う。それはとても醜くみっともないことで、読書とか歌とか絵とか、何か趣味に没頭している時にはもう少し意識しないで済んでいた筈のせせこましい感情である。
 いまの彼氏のことを、私は傲慢にも、幸せにできると思ったし、自分にとって妥当な落とし所だと、それこそ70点/70%くらいの相手だと思う意識が確かにあった。だからむしろ私に見覚えがあるのは男性の方の言動だ。
 女性の真実は、点数をつけられたことやパートナーが自分を雑に扱うことに酷く傷つき怒り疲れ果てるし、そんな真実にも善良故の傲慢さがある。
 真実の心情は私の彼氏と重なっていた。私は二人よりさらに傲慢だったかもしれないと思った。
 難しい。自分で決めること、依存しないこと、新しい依存先を探す以外の恋愛と家族の在り方。ただ私は、もっと広い世界を知りたい。真実がそうしたように、架が訊いてまわったように。