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絵本の裏側 4

それではここから本編です。
ひと見開きずつ『ふしぎなもり』を歩いていきます。
絵本を通しで読みたいよ、という方は下のリンクをご覧ください。

はじめの一歩

ほんとうはちょっとこわいけど、はいってみようとおもったんだ。

男の子が、未知なる森へ記念すべき一歩を踏み出します。
決心が鈍らないように、力強く。
でも恐れる気持ちがあって、ゆっくりしか進めません。

男の子は、前からこの森の存在を知っていました。
たまたまこの日、気になる森へ入る決心をしたのです。

気持ち次第

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男の子が踏み入った森はオヒルギというマングローブの森でした。
足元には得体の知れない出っ張りがたくさん生えています。
恐れる気持ちがある男の子には、なんともいえない気味の悪さと相まって、自分を転ばせるための仕掛けのように見えています。

この謎の出っ張り、マングローブの散策ツアーでは意外に人気?があります。
座ってるサルの後姿みたいとか、ゾウに見えるとか、ゴリラっぽいとか。
そして森のちいさな住人にとっては格好の隠れ家にもなっています。
人によって、見方によって、心模様によって。
見え方はどんどん変わります。

オヒルギのしかけ

出っ張りは、いったい何なのか。
正式には「呼吸根」とか「膝根」という名前があります。
マングローブが生える場所は、海水や汽水が満ちてくることが多いです。
他の木が生える場所と違って地面の中に空気が少ない環境です。
そこで、彼らは根を地上まで飛び出させて一生懸命に息をするのです。
その飛び出た根っここそ、しかけなのです。

しかけには引っかからないぞ。
ゆっくり進むことは、男の子にもオヒルギにも優しい、お近づきの歩みとなりました。

まだまだオヒルギ

折角なのでオヒルギについてもうちょっと。
たくさんの根が出ているので、この根から新しい芽が出てきそうなものですが、実はそうではありません。
オヒルギやマングローブの仲間は、実生苗(みしょうなえ)といって木の上で種を発芽させ、いわゆる苗の状態まで育ててから地上に落とすという戦略をとります。
約10ヶ月間、木の上で苗を育てるため、人間と同じ「胎生」種子といわれることもあります。

小さな種を撒き落とすより大きくしてから落としたほうが、生き残りやすいという考えでしょうか。
水に落とすと、ちゃんと芽がでる方が上、根が出るほうが下に浮びます。
私たちには知りえない秘密がまだまだたくさんあるんだろうなあ。

絵本の中にも数本、小さな苗が根付いています。
探してみてくださいね。

ふりかえり

「実は大人の絵本だよね。」
絵本を読んだある人が言いました。
そうかと思って改めて見てみると、男の子が自分のように見えてきました。
自分で描いたんだから当たり前か。

ちょっと恐かったのは私でした。
住み慣れた土地を離れるのが恐かったし、良くしてくれた職場を離れるのが恐かった、恋人と離れるのも恐かった。何より、新しい場所でうまくやっていけるか恐かった。(もちろん、初めてマングローブに入る時もちょっと怖かった。)
何歳になっても怖いことはなくならないんですね。

でも、一歩を踏み出したら何となく、前へ進んでしまう。

いろんな恐れに日々立ち向かう、大人の皆さまにも届けばいいなと思っています。

〈本編 P.1-2〉

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