見出し画像

絵本の裏側 15

「絵本の裏側」最終回です。
絵本を読んでくださった方も、この記事を読んでくださった方も、
どうもありがとうございました。

絵本を作る作業のなかで、自分の気持ちと向き合っていることに気が付きました。今までふんわりとしていた感情が少し明確になりました。
備忘録的で恐縮ですが、その気付きを書いて終わりにします。

お返しのかたち

脱サラ&沖縄へ行ったのは、ふんわりざっくり自然を大事にしたいということからでした。

沖縄でたくさんの観光客に出会いました。
きれいな景色や癒しを求めてくる人も少なくないです。
海を見て「きれい!」と言って、写真を撮って、足元の漂着物は見て見ぬ人もたくさんいました。
そんな様子を見て、なんだかな~という気持ちになりました。
そしてだんだん、不思議だな~と思うようになりました。

何が不思議かというと、
人からされて嬉しかったことに対して「ありがとう」と言える人はたくさんいます。でも、「海の青さに癒された」「風が気持ちいいな」「おいしい空気だ!」と感じても、海や風や砂浜にありがとうと思う人はほとんどいないように見えました。

心の中で思っていても声やかたちにしないだけかも知れません。
そして私もうっかり、当たり前と思ってしまう時があったりします。

もし、ありがとうの気持ちをかたちにするとしたら、どんな方法があるのかな。考えるようになりました。

「自然を大切に」「生き物を守ろう」。
もちろんその通りだし、そうしていきたいと私は思います。
だけど、みんながそう思う必要はないかも知れないし、強制したり誘導するものでもありません。
ただ、人間以外にも色んな生き物がいること、各自それぞれの方法、それぞれの場所で生きていること。そういうことを知っているだけで、その人もその人の周りも少しだけ豊かになると思っています。
(逆に言うと、知らずに人間生活を送り続けること、回り巡って不利益を被るぞ!と思っています。)
そのことを知ってもらう方法のひとつとして、絵本はとてもしっくりくるものでした。

絵本が人間界以外の世界を知るきっかけになることを願って、そしてそのことがいつか、彼らへの恩返しになることを願って、絵本を作りました。

人が好き

サラリーマンを辞めようと思い始めた頃から、何となく人間嫌いになっていました。人間界しか目に入っていないようにみえる人の振る舞いにうんざりしていました。
自分も人間で、そういう振る舞いとは無関係でなく暮らしていることにも、さらにうんざりしていました。
でも、絵本づくりをとおして、人の支えの温かさやありがたさを感じずにはいられませんでした。

そもそも絵本をつくるきっかけは人の言葉だったし、
絵本をかきたいと思える場所や生き物に出会ったのも、人との繋がりからでした。
集中して絵を描ける場所を提供してくれる人がいて、最後まで描ききることができました。試し刷りをするのに印刷機も貸してくれました。
試作のカラーコピーを渡したら、試しに自前製本してくれた人がいました。
旅先で絵をみせたら男の子がとてもいい反応で、やっぱり製本しようと決めました。
親切な印刷屋さんが指導してくれて、沖縄で製本することができました。
コロナが流行しはじめた頃にnoteで公開したのも、知り合いの提案からでした。

目の前にするひとりひとりの人間はやっぱり好きなのだと思います。
まとまった人間(人類?)が苦手ということなのかと、今は思っています。

ものを残すということ

初刷の数十冊は、お世話になった人へお礼に配って回りました。
言葉とともに手渡せる「もの」があるというのは、思いのほか嬉しいことでした。

そしてもうひとつ。
絵本の完成と同時に沖縄を離れることになったので、もう私は不思議な森の案内人を出来なくなりました。
その代わりに絵本が存在することで、私がいなくてもその場所に行かなくても、読んだ人がふしぎなもりを探検することができます。場所も時間も関係なく、何度でも出かけていけます。
そんなことに気が付いて、かたちを残すことの意義を噛みしめました。

同時に、世の中にものを残すということは残すなりの責任があるとも感じます。作りっぱなしで放置したらただの紙の束です。
最低限、費やされた資源や人の労力の分は、還元しないといけないし、それは作った私の今後の仕事です。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました!〈「絵本の裏側」おしまい 〉

【絵本はこちらです】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?